バラ、特にオールドローズが好きで名前の由来や育種の経緯などを調べています。
宿根草や葉色が美しい草花や灌木などをアレンジしたバラ咲く庭を愛でるのも長年の夢です。

カザンリック(Kazanlik)

カザンリク

どんなバラ?

7cmから9cm径、30弁前後、小さな紙片を重ねてシャッフルしたようなルーズな丸弁咲きとなります。
鮮やかなピンク、花弁に濃淡が出て繊細な印象の花色です。
鮮烈に香ります。
卵型の、縁のノコ目が強い、グレーイッシュで明るい色調のつや消し葉、120cmから180cm高さのシュラブとなります。明るい、しかし、くすみの入った葉色はダマスク・ローズの典型的な特徴です。


1850年頃、中東で栽培されていたものが持ち帰られ、ドイツのドクター・ディーク/Dr. Dieckにより公表されたという説もありますが、一般的には古い時代に中東からもたらされたものとみなされています。

名前の由来

ブルガリア中部のカザンリュック/Kazanluk近在で、バラ香油の原料として大規模に栽培されていることから、カザンリク/Kazanlikと呼ばれるようになりました。バラの香りとして典型的なものに挙げられる、”ダマスク”香を楽しむには最適の品種です。


また、ハンガリーの他の地域やトルコなどでもこの品種、あるいは、近似した品種がバラ香油採取の目的で栽培されているようです。それらを総称して、”トリジンティペターラ/Trigintipetala(30枚花弁花)”と呼んだらどうかと提案する研究者もいます。(R. Phillips & M. Rix, “Best Rose Guide”)

有名な逸話としてしばしば引用されているのは、ローマ帝国第23代皇帝、トランジェンダーであり、倒錯的な性行為や異教に染まり異様な行為を繰り返した末、殺害されたヘリオガバルス(Heliogamalus)にちなんだものです。

伝えられている話

ヘリオガバルスは、宴会場の天井に天幕を張って大量のバラの花弁を隠しておき、宴たけなわのときに天幕を切って落下させ招待客が窒息死するのを見て楽しんだとされていいます。

The Roses of Heliogabalus (1888). Oil on canvas, 132.1 × 213.7 cm. Private collection

“ヘリオガバルスの薔薇” Painting/Lawrence Alma-Tadema, 1888 [Public Domain via Wikimedia Commons]

この逸話がほんとうにあったことなのかどうかは不明です。しかし、エジプト女王クレオパトラがシーザーやアントニウスとの饗宴の席をバラの花弁で飾りたてたと伝えられているなど、バラの花弁の馥郁たる香りは紀元前から楽しまれてきました。

はたしてこれらのバラは、今日おもに精油の原料とされているダマスクであったのか、それともダマスクよりも古い由来とされるガリカであったのか、残念ながら解き明かされていません。