どんなバラ?
6cmから9cm径の、平咲きの花となります。
薄いピンクの花色ですが、時に筆で掃いたように、濃いピンクが現われることがあります。
強く香ります。(強香)
150cmから210cmのシュラブ型となります。花壇などの後部へ植えつけるのがよいでしょう。
1597年刊行のマティアス・ド・ロベリウス(Matthias de Lobelius)による『Plantarum, seu Stirpium Historia』にベルギーのアドリアン・フォン・グラヒト博士(Dr. Adrian von der Gracht)が「白花に少し、刷毛ではいたような、または明るいピンクがまざる…」と解説しているダマスクはこの品種であろうとされています。この品種がいかに古い由来をもった品種であることがわかります。
別名
“ローザ・ダマスセーナ・ベルシカラー”(Rosa Damascena Versicolor)、“ベルシカラー”などの別称があります。
赤バラと白バラの薔薇戦争
15世紀、イングランドの勃発した薔薇戦争(1455-1485)は赤バラを紋章とするランカスター家と白バラのヨーク家の間の抗争でした。1455年から開始された抗争は女性や子供まで巻き込んで、殺し、殺されという惨劇が繰り返されましたが、1485年、ボズワースにおいて赤いバラを紋章とするランカスター派のヘンリー・チューダー(後のヘンリー7世)が白バラのリチャード3世に勝利して終焉を迎えました。王位に就いたヘンリー・チューダーはヘンリー7世と名乗り、白いバラを紋章とするヨーク家のエリザベスを妃に迎えて、王位をめぐる血を血で洗う抗争はようやく終わりをつげました。
やがて、淡いピンクと濃いピンクの混じることのあるこの品種は両王家の融合を象徴して”ヨーク・アンド・ランカスター”と呼ばれるようになりました。まことにふさわしい命名と思います。
シェイクスピアやルドウテが愛した“赤白まじりのダマスクバラ”
シェイクスピアが作品のなかで、若い女性の初々しさを表現するとき、”赤白まじりのダマスク・バラ”という言葉を使っている箇所がありますが、 シェイクスピアの念頭にあったのは、このバラのことではないかと英国のバラ研究家は考えているようです。
ソネット集99番
(愛する青年を讃えるのに、最初に吐息をスミレに、つぎに白い手をユリに譬え)
トゲに囲われ、恐れおののくバラたち/The roses fearfully on thorns did stand,
一つめは恥じらって赤く、二つめは(拒絶におののき)白く色ざめ/One blushing shame, another white despair;
三つめは赤でも白でもなく、ふたつから色を盗み/A third, nor red nor white, had stol’n of both,
色ばかりではなく(香しい)吐息まで盗んだ/And to his robbery had annex’d thy breath;
ルドウテが残した植物画
ルドゥテがロサ・ダマスケナ・ヴァリエガータ(Rosa damascena variegate)と銘うって残している美しい植物画もこのヨーク・アンド・ランカスターです。