どんなバラ?
7cmから9cm径ほどの、中輪、ロゼッタ咲きの花となります。
花色は少しくすみ(灰)の入った深みのあるピンク。
春のみの開花、一季咲きです。
いくぶんか大きめ、幅狭のつや消し葉。細いけれども固めの枝ぶり。90から120cm高さの立ち性のシュラブとなります。
市場へ紹介されたいきさつ
この品種は現在ではオーストリアの公女でナポレオン・ボナパルトの2番目の妻となったマリー・ルイーズ(Marie Louise of Austria)と呼ばれるのが一般的ですが、実際には、だれがいつ育種し、市場へ提供したのか、その時の品種名は何であったのか、いずれも不明のままです。
それ故、熱心なバラ研究家が考察を重ねていますが、ダレル・スクラム氏(Darrell g.h. Schramm)による”200 Years and Counting: Marie Louise”(Rose Letter 2013)がよくまとまっているので、そのサマリーをご紹介します。
このバラの誕生年は、1813 年とされることが多いですが、この日付は、1829 年のバラのカタログでプレヴォストが「Marie Louise」を 1813 年にマルメゾンで受け取ったと述べていることに基づいているようです。ただし、「受け取った」は「育てた」または「紹介した」という意味ではありません…
Graham Stuart Thomas は誕生年を 1811 年としています…
1954年にロイ・E・シェパードは彼の古典的な著作の中で、このバラは1800年より前に初めて登場したと主張しました…
ガリカの権威であるフランソワ・ジョワイオは、「マリー・ルイーズ」は淡い淡いピンクのガリカである「アガサ・インカルナータ」と同じであると考えています…
小、中輪の花が多い、オールド・ガーデン・ローズの中にあって、比較的大きな花形となる美しい品種として知られています。ア・フルール・ギガンテスク(A Fleurs Gigantesques;巨大花)と呼ばれることもあるほどです。
ダマスク・ローズの頂点にあるといってよい優れた品種(”Graham Stuart Thomas Rose Book”)ですが、花色や花形からジョワイヨ教授のようにガリカの一品種とされることもあります。
品種名の由来
この品種は、ジョセフィーヌがマルメゾン館の庭園に集めたバラ品種のひとつだと言われています。育種当時はベル・フラマンド(Belle Flamande)など別名称だったようですが、時代が下がるにつれマリー・ルイーズという品種名がもっとも一般的なものになりました。
この命名はとてもアイロニカルだと感じています。つぎのような事があったからです。
マリー・ルィーズ/Marie Louise(1791-1847)は、ナポレオン1世がジョセフィーヌと離婚した後、皇妃として迎えたオーストリア皇帝フランツ1世の娘、ハプスブルグ家の王女です。フランス革命の渦中でギロチン刑に架せられたマリー・アントワネットは大叔母にあたります。
オーストリーはナポレオン率いるフランス軍に何度も蹂躙され、マリーはナポレオンを忌み嫌っていました。
ジョゼフィーヌとの間に子ができないため、自分の生殖能力には欠陥があるのでないかと悩んでいたナポレオン(ジョゼフィーヌには前夫との間に2子があった)ですが、愛人との間に私生児が誕生したことにより、名家の娘との間に子を設けて皇帝たる自分の子孫を残したいと思うようになりました。
そこでナポレオンは、高貴とは言えない家系のジョゼフィーヌを離縁し、ハプスブルグ家の公女マリー・ルイーズと婚儀をむすぶことにしました。この結婚は敵対するハプスブルグ家との間のものでしたので、政略結婚そのものでした。
婚儀が定められたときマリーは泣き暮らしたと伝えられています。しかし、結婚直後は、ナポレオンがマリーに穏やかに接したことから、フランスでの生活は平穏であり、嫡子ナポレオン2世にも恵まれました。
時が流れるにつれ、無敵のナポレオンもロシア遠征(1812年)で致命的な敗北を喫するなどして敵対する同盟軍に追われるようになり退位を余技なくされます。マリーはナポレオンがエルバ島へ流刑(1814年)となった後はウィーンへ戻り、ナイベルグ伯と密通して娘を産むなどナポレオンとは疎遠になってしまいました。
1815年、ナポレオンがエルベ島を脱出しパリへ向かっているという知らせを聞いたときには仰天して、
「またヨーロッパの平和が危険にさらされる」と言ったと伝えられています。(”Wikipedia”など、2024-12-03閲覧)
政略結婚であったにせよ、また、密通などにはかなり寛容な当時の時代風潮があったにせよ、”英雄”ナポレオンン・ボナパルトの”不実”な妻という悪名を後々まで残すことになってしまったのはある意味では気の毒なことだと言えるかもしれません。