バラ、特にオールドローズが好きで名前の由来や育種の経緯などを調べています。
宿根草や葉色が美しい草花や灌木などをアレンジしたバラ咲く庭を愛でるのも長年の夢です。

レダ(Leda)

レダ(Leda)

どんなバラ

7cmから9cm径、25弁ほどの丸弁咲きの花形となります。
開き始めのつぼみの先端に鮮やかな紅が出ます。花が開くと、花弁は純白、つぼみの時の紅は縁に残り、深紅に縁取りされた白いバラとなります。
筆で彩りを添えたように見えることからペインテッド・ダマスク(Painted Damask)と呼ばれることもあります。
強くはありませんが、甘い香り。(中香)
深い葉緑、細く鋭い小さなトゲが密生する枝ぶり、120cmから180cmほどのシュラブとなります。

よく似た品種

現在、ピンク・レダと呼ばれているダマスクが古い時代から、おもにフランス内で流通していました。花全体がミディアム・ピンクとなりますが、花色は一定せず、大きな班模様が出るといった印象を受ける品種です。
レダからの枝変わりがピンク・レダ、いやその逆だピンク・レダが元品種でレダになったと、研究者の間でも意見が異なり、定説はありません。

ピンク・レダ(Pink Leda)
‘Pink Leda’ Photo/Krzysztof Ziarnek, Kenraiz [CC BY SA-4.0 via Wikimedia Commons]

品種名の由来

この美しいダマスク・ローズはギリシャ神話に由来しています。神話は話が話を生み、うねりとなって続いてゆきます。簡単にたどってみましょう。

ゼウスとレダ

主神ゼウスは、スパルタ王ティンダリオスの王妃であった美しいレダに横恋慕します。レダは夫ある身、その度にゼウスの思いを拒絶します。

しかし、ゼウスはあきらめませんでした。鷲に追われて傷を負った白鳥に化けてレダの哀れみを誘い、そして終に思いを果たします。

レダと白鳥(Leda and the Swan)
‘Leda and the Swan’ Painting/Giambettino Cignaroli [Public Domain via Wikimedia Commons]

この密通により、レダはふたつの卵を産み、ひとつの卵からはクリュタイムネストラとヘレナという女の子が、もうひとつからは、カストルとポルックスという男の子と、それぞれ双子が生まれました。

パリスの審判

ヘレナは長じて絶世の美女となり、多くの男が妻に迎えようとして争うこととなりましたが、求婚者らが集って話し合い、ギリシャ諸都市を総帥するミュケナイ王アガメムノンの弟、スパルタ王メネラオスが夫となることが決定されました。しかし、神話は海原のうねりのようにさらに大きく展開してゆきます。

黄金の林檎を巡って主神ゼウスの妻ヘラ、智謀の女神アテネ、そして愛の女神アフロディテ(ビーナス)が争ったとき、主神ゼウスはそれをトロイア王プリアモスの息子パリスがいちばん美しいと判じた女神のものとするという裁定を下しました。

ヘラは王国を、アテネは戦いにおける勝利を、そして、アフロディテは人間のなかでもっとも美しい女を与えるという約束をして裁定者パリスを誘惑します。

‘The Judgment of Paris’ Painting/Lucas Cranach the Elder [Public Domain via Wikimedia Commons]

パリスが選んだ一番美しい女神は、アフロディテでした。パリスは約束通り、人間のなかで最も美しい女を娶ることができるという褒美を得ることとなりました。人間のなかで最も美しい女ヘレナがすでにアガメムオンの弟、メネラオスの妻となっていたことは前に触れたとおりです。しかし、パリスはアフロディテの助けによってヘレナを誘惑し、故郷トロイへ逃げ帰ってしまいます。これが、ギリシャ、トロイ間の戦争(トロイ戦争)の発端となりました。

トロイ戦争

トロイ戦争では英雄アキレウスや、アキレウスと戦って非業の死を遂げるパリスの兄へクトールなどが活躍します。この顛末は、ホメロスの叙事詩『イーリアス』で雄々しく語られています。城壁をはさんで長く続いた戦闘は、「木馬の計略」によりギリシャ軍の勝利となることはご存知のとおりです。

the Trojan Horse in Troy‘ Painting/Giovanni Domenico Tiepolo [Public Domain via Wikimedia Commons]

『イーリアス』が語る物語は英雄アキレウスの葬儀をもって終わります。

『オデッセイア』はホメロス作、『イーリアス』の続編にあたります。トロイ戦争に勝利した英雄オデッセイは故国イタケ―を目指しますが、帰途、息子ポリュペーモスを傷つけたことで海神ポセイドンの恨みを買い、そのため数々の妨害にあい帰郷を果たすまで十年の歳月を要することになるという叙事詩です。