バラ、特にオールドローズが好きで名前の由来や育種の経緯などを調べています。
宿根草や葉色が美しい草花や灌木などをアレンジしたバラ咲く庭を愛でるのも長年の夢です。

ダッチェス・オブ・ポートランド(Duchess of Portland)

ダッチェス・オブ・ポートランド(Duchess of Portland)

ダマスク・パーペチュアルとポートランドローズ

ダマスク・パーペチュアル(返り咲きするダマスク)というクラス呼称は現在一般的になりましたが、実はこのクラスは長い間、ポートランドローズと呼ばれていました。ダッチェス・オブ・ポートランドという赤花品種があり、その品種がクラスの始まりと見なされていたからです。

どんなバラ?

Photo/Salicyna [CC BY SA-4.0 via Wikimedia Commons]

中輪または大輪、25弁前後のダブル咲き、花色は赤。色変化も大きく、深いピンクになることもしばしば。
樹形は小ぶりなブッシュとなるなど、ガリカとダマスクの中間的な性質を示します。

花はうなだれることなく上向きに端正に開きますが、茂る葉に埋もれてしまうこともあります。この特徴はこの品種を元にして育種されたバラにしばしば見られることになり、このダマスク・パーペチュアルの特徴のひとつとなりました。

品種名の由来など

この品種は、イングランドのポートランド公爵夫人が保有していました。返り咲きする特徴に目を止めたフランスの園芸家デュポンが譲り受け、ダッチェス・オブ・ポートランド(Duchess of Portland;“ポートランド公爵夫人”)と命名して市場へ提供しました。1785年の頃と言われています。(”Classic Roses”, Peter Beales, 1997)

多くの研究者がさらに文献を調べ、1770年にはこの品種と思われるものが記載されているとがわかりました。

オータムダマスクのように返り咲きし、また、花色や花形がガリカ・オフィキナーリスとも類似していることから、当初は両品種の交配によって育種されたとする説が有力でした。
しかし、現在ではクリムゾン色のチャイナローズの影響があるのではないかなど、研究家の間でも定説を疑問視する向きがあります。

ポートランド公爵夫人

ポートランド公爵夫人(Margaret Cavendish Bentinck:1715-1785)は、エドワード・ハーレー/オクスフォード=モーティマー伯爵家に生まれた貴族令嬢です。兄が夭折したため伯爵家のひとり娘であったこと、また、やはり高貴な一族の出身で広大な所領を有していた母からも莫大な遺産を受け継ぎ、当時もっとも富裕な貴族のひとりでした。

1773年には第2代ポートランド公爵、ウィリアム・ベンティンク(William Bentinck:1706-1762)と結婚し、公爵夫人となりました。

“Margaret Cavendish, Duchess of Portland” Painting/ Thomas Hudson, 1744 [Public Domain via Wikipedia Commons]

父ハーレー伯爵は美術品や古書の蒐集に熱心でした。伯爵の古書のコレクションは“ハーレー旧蔵書”として大英博物館に保管されています。父にならったのでしょう、夫人も美術品を集めることに熱中しました。バッキンガム州にあった伯爵家の館ブルストロード・ホール(Bulstrode Hall)は様々なコレクションでいっぱいでした。

槐集は美術品に止まらず、すべての新奇なもの、昆虫、動物、植物にわたり、館には動物園と植物園が併設されていました。この館は貴族のみならず、多くの芸術家や学者が訪れるなどして、学術・文化交流のサロンとなりました。しかし、図書を除く膨大なコレクションは彼女の死後、多くは散逸してしまいました。

こうして返り咲き性を得たバラ群はこの品種をはじまりとみなしてポートランドと呼ばれ、それが長い間続きました。しかし、現在は、オータムダマスクをクラスの始まりと考え、ダマスク・パーペチュアルと呼ばれるように変わりました。