ツユクサ(露草)/Asiatic dayflower:一年生草本
- 学名:ツユクサ科ツユクサ属/Commelina communis
- 別名:月草、鴨跖草(ツキクサ)、ホタル草、デイ・フラワー
- 花色:ブルー、紫、白(品種による)
- 草丈x株幅:30㎝x60㎝
- 花期:6月~9月
- 原産地:日本を含む東アジア
ツユクサは日本など東アジア原産でよく見かける一年草の雑草です。古くは月草、鴨跖草(ツキクサ)と呼ばれていました。朝咲いた花は昼にはしぼんでしまう一日花ですので、はかないものを象徴するものとして愛されてきました。
こぼれ種により旺盛に繁殖するので雑草としてあつかわれていますが、這い性で横へ横へと茎を伸ばし、初夏から秋にかけてはらはら咲きしている様子には風情があり、万葉の時代から今日まで多くの人に愛されています。
また、葉や茎は食用に、また利尿剤、下痢止め、解熱の効果がある生薬としても利用されています。
品名、学名などの由来
学名Commelinaは、オランダの植物学者ヤン・コメリン(Jan Comelin)と甥のカスパル(Caspar)にちなんで命名されました。
欧米ではアジアティック・デイ・フラワー(Asiatic Day Flower)と呼ばれますが、アメリカなどには同じ科のTradescantiaが自生し、それがディ・フラワーと呼ばれていることから、”アジアティック”を加えて区別されています。
大輪花を咲かせる異種オオボウシバナ(Commelina communis var. hortensis)は染料などに利用される栽培種です。
和歌、物語のなかで
万葉の時代から今日まで、和歌や物語などで、”はかない”ものとして言及されてきました。
万葉集から
万葉集には古名”つき草”の名前で9首が残されています。一首ご紹介しましょう。
つき草のうつろいやすく思へかも我(あ)が思(も)ふ人の言(こと)も告げ来(こ)ぬ(巻4 583)
ツユクサの色のように移り気でしか思っていないからですか?好きになった人はことばもかけてくださらない
大伴坂上大嬢(おおとものさかのうえのおおいらつめ:生没年不詳)が従兄である大伴家持に贈った恋の歌です。大郎女の母であり、家持の叔母であった大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)がまだ若年のふたりにけしかけた、あるいは万葉集を代表する歌人のひとりとして娘の代作をしたのではないかと疑われているようです。
若き日の大伴家持はさぞや凛々しい青年貴族だったのでしょう、数多くの乙女と浮名を流しました。
『源氏物語』37帖「横笛から
女三宮の出家、落葉の宮の夫の死と、相次ぐ姫宮たちの不幸を嘆く朱雀院から、女三宮のところに筍が贈られてきます。それを生えかけた歯でかじる幼い薫を抱きながら、源氏は、自身の、そして妻の不義がもたらした重い事実を受け止めています。それにしても、薫はなんと愛らしいのだろう…
…かしらは、露草して、ことさらに色どりたらむ心地して、口つきうつくしう匂ひ…
…(女三宮と柏木の不義の子である薫は)、髪の毛は露草でわざわざ染めたかのように青い色をし、口元も匂うように美しい…
室生犀星『抒情小曲集』から
室生犀星(1889-1962)は不幸な境遇に育ちながらも文学へのこころざしを失わず、はじめ詩人として、後に小説家としても名を成しました。
詩集のなか、「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」の詩句はよく知られています。
秋はしづかに手をあげ
秋はしづかに歩みくる
かれんなる月草の藍をうち分け
つめたきものをふりそそぐ
われは青草に座りて
かなたに白き君を見る
紫つゆ草/Tradescantia ohiensis:多年生草本

ムラサキツユクサはツユクサとよく似ていて、同じツユクサ科ですが属名が異なる、別品種です。
- 学名:ツユクサ科ムラサキツユクサ属/Tradescantia ohiensis
- 別名:トラディスカンティア、西洋ツユクサ、デイ・フラワー、スパイダーウォート(Spiderwort:”蜘蛛の草”)
- 花色:ブルー、紫、白、ピンク(品種による)
- 花期:5月~7月、10月~11月(状態がよければ)
- 原産地:カナダ南部からアルゼンチン北部にかけて
- 草丈x株幅:50㎝x50㎝
”ツユクサ”と”ムラサキツユクサ”の違いをおおざっぱにくくると、次のようになると思います。
品種 | 草姿 | 花形 | 原産地 |
---|---|---|---|
ツユクサ | 這い性の一年草 | 3弁、下向きの弁は白で小さい | 日本を含む東アジア |
ムラサキツユクサ | 立ち性の多年草 | 3弁、同じ色、同じ大きさ | 南北アメリカ |
庭植えなどで利用されているのはもっぱらこちらのムラサキツユクサのほうです。
南米産など温暖地域の自生種には葉色に変化があり観葉植物としてよく利用されています。
品名、学名などの由来
学名Tradescantiaは、英国の園芸家/植物学者であるジョン・トラディスカント・エルダー&ヤンガー(John Tradescant, Elder & Younger:1570s-1638, 1608-1662)にちなんで命名されました。
庭植え向きには北米原種が交雑したアンダーソニア(T-x andersoniana)を元品種としたものが多いようです。
代表的な園芸種
いくつか園芸種をご紹介します。
ムラサキツユクサ ‘スイート ケイト’
Tradescantia ×andersoniana ‘Sweet Kate’

アンダーソニア系の園芸種。オーレア(黄緑)の葉と青花のコントラストが美しい人気品種です。じょうぶな多年草としてよく庭植えされています。
ムラサキゴテン(紫御殿)
Tradescantia pallida ‘Purpurea’

メキシコ原産。かなり耐寒性はありますが、室内管理の観葉植物として利用されることが多いです。
シマムラサキツユクサ
Tradescantia zebrina

パリダと同様メキシコ原産。観葉植物として利用されています。