どんなバラ?
9㎝から11㎝径、花形はロゼッタ咲き。花芯の花弁は立ち上がり気味、外弁は広がり気味となることが多いようです。
淡い、しかし鮮やかなピンクの花色。周辺部が色落ちして、ピンク・ブレンドのような印象になることもあります。
香り高いダマスク香。
卵形の、表皮が縮み気味の、明るい色合のつや消し葉。90cm~120cm高さのシュラブとなります。
育種された経緯、取り違え説
1868年、フランスのモロー=ロベール(Moreau-Robert)により公表されました。じつは1842年にジャン・デスプレ(Jean Desprez)が育種公表したハイブリッド・パーペチュア(HP)、マルチェザ・ボッセーラ(Marchesa Boccella)と酷似していることが長く唱えられていました。
1996年のアメリカン・ローズ・アニュアルに掲載されている記事が詳しいのでそのサマリーを引用します。
長年、同じバラがマルチェザ・ボッセーラとジャック・カルティエの名前で販売、栽培、展示されてきた…
現在栽培されているバラは、ポートランド・クラス(ダマスク・パーペチュアル)の顕著な特徴、つまり開花した花は最上部の葉の下に咲きがちとなる非常に短い花柄を備えているというポートランドの特徴を備えているため、HPに分類されているマルチザ・ボッセーラよりも、ポートランドにクラス分けされているジャック・カルティエ のほうが本当の名前である可能性が高いと主張されてきた。ただし…マルチザを支持する強力な証拠は(現在流通しているものが)『もっとも美しいバラ選(Choix des Plus Belles Roses)』(1845)で紹介されている挿絵と詳細な説明が驚くほど似ているという点だ。
したがって、総合的に判断すると、これまでの文献で見つかった情報は、今日栽培されているバラの名前として、マルチザ・ボッセーラがより妥当であることを示している。『マルチェザ・ボッセーラ対ジャック カルティエ』、チャールズ A. ウォーカーJr.
アメリカン・ローズ・アニュアル (American Rose Anual;1996)
上の記事で引用されている『もっとも美しいバラ選(Choix des Plus Belles Roses)』のなかで詳細に記述されている内容は次のようなものです。
小枝は葉が多く、多数の棘または無害な大きな短い毛がある。葉は 5 枚または 7 枚の小葉から成り、膨らみがあり、不規則な鋸歯があり、ざらざらしていて、細長い卵形で、時には丸みを帯びている。葉柄には硬い毛が密生して、托葉には細い翼があり、滑らかであり繊毛が生え、先端で葉柄からほぼ直角に離れ、葉の基部に 2 種類の突起または鋸歯を形成する配置になっている。
花柄は非常に短く赤い毛が密生している。子房は無毛で、細長くなっている。咢片は葉が多く、ざらざらしている。花は葉に埋め込まれ、通常は図に見られるように 1 つか 2 つのつぼみの間に開く。
画像はこちらのリンクをご参照下さい。
https://www.helpmefind.com/gardening/fs/788/403925.jpg
ジャック・カルティエ/Jacques Cartier(1491-1557)
ジャック・カルティエ(Jacques Cartier:1491-1557)は16世紀に活躍したフランスの航海家です。セント・ローレンス河流域を中心とした北米大陸への3度にわたる航海・探検で知られています。今日国名となった”Canada”は、カルティエが先住民の居住地をさして用いていた単語だと言われています。

グラハム・トーマスは異論があることを承知していながら、ダマスクに似た花形、花色、香り、明るいつや消し葉などの特徴から「わたしはジャック・カルティエが正しい名前ではないかと確信したい…」と希望的な感想を述べています。(”Graham Thomas Rose Book”)
美しい色変わり種
ジャック・カルティエには枝が伸びるクライマーとなるもの、そして白花に色変わりした枝変わり種があり、比較的容易に入手可能です。
とくに白花へと色変わりしたホワイト・ジャック・カルティエ(White Jacques Cartier)はことのほか魅力的で、個人的には白花ダマスクとしては、マダム・アルディ(Mme Hardy)、マダム・ゾートマン(Mme. Zöetmans)に並ぶ美しさだと思っています。

マルチェザ・ボッセーラについても情報を整理しておきましょう。
マルチェザ・ボッセーラ(Marchesa Boccella)

パリ南東部の村イェーブル(Yèbles)に住んでいたバラ愛好家ジャン・デスプレ(Jean Desprez)により育種されました。育種年ははっきりしていませんが、1842年には世に知られていたので、1842年以前と記載されます。デスプレは生涯アマチュアを通しましたが、
ジャンヌ・デスプレ(Jaune Desprez)1828
ベル・ド・イェーブル(Belle de Yèbles)1835以前
バロネ・プレヴォ(Baronne Prévost)1841
など100を超える美しい品種を残したことで知られています。
ボッセラ伯爵夫人、ヴィルジニー・マリア・イグナティア・プレドゥー(Virginie Maria Ignatia Plaideux ;1812 – 1893)に捧げられました。
ヴィルジニー・マリア・イグナティア・プレドゥー(1812年 – 1893年)は、エステルハージ公ニコラウス2世の娘として生まれ、1830年、ルッカ公爵の侍従で詩人、作曲家のセザール・ガブリエル・マルケーゼ・ボッチェッラ侯爵と結婚したと伝えられています。
おそらく、本物のジャック・カルティエは失われてしまったのでしょう。ボッセラ伯爵夫人へささげられた香り高い美しいライト・ピンクに花開くバラはより知名度が高いジャック・カルティエととして流通することになったと思われます。