バラ、特にオールドローズが好きで名前の由来や育種の経緯などを調べています。
宿根草や葉色が美しい草花や灌木などをアレンジしたバラ咲く庭を愛でるのも長年の夢です。

ロズ・ド・レシュ(Rose de Rescht)

ロズ・ド・レシュ(Rose de Rescht)

どんなバラ?

7㎝から9㎝径の中輪、ロゼッタ咲きまたは丸弁咲き。開花時、花色は濃いピンクですが次第にグレーが加わって暗色となり、落ち着いた印象のクリムゾンへと変化してゆきます。
強い、ダマスク系の香り。
90㎝から120㎝高さのブッシュとなります。

元来、返り咲きするのがダマスク・パーペチャルの性質ですが、この品種はとりわけ返り咲きする性質が強いのが特徴です。ただ、英国のピーター・ビールズ(Peter Beales)は、
「返り咲きするのは株が若いときだけだ…」とコメントし、その見解からか、この品種をガリカにクラス分けしています。
観察した範囲では返り咲きする性質は長く保たれていますので、個人的にはダマスク・パーペチュアルにするのが適切だと思っています。

市場へもたらされた経緯

この品種はイギリスの、ナンシー・リンゼー(Nancy Lindsay)によって、ペルシャの古い都市レシュ(現在はイラン)の庭園で収集したとし、ロズ・ ド・レシュ(レシュのバラ)と命名のうえ、1940年に公表されました。

レシュ(ラシュト; Rasht)はイランの首都テヘランから北西に200kmほど、カスピ海に面する都市です。温暖な気候からイラン国内では現在、リゾート地となっているようです。

“Rasht, Iran in 1906”, Internet Archive Book Images @ Flickr Commons

しかし、不可解なことがあります。グラハム・トーマスは、この品種について、

「…多分、ダマスクに入れるべきだろう…ブレンド・ディカーソンが1989年の『ガーデン・ジャーナル』で提言したとおり、これが本来のロズ・ド・ロワなのではないかと思われる」とコメントするだけで、彼の著作のなかでは、ひとつの品種として独立した項を設けていないのです。

実は、ナンシーとグラハム・トーマスは、ローレンス・ジョンストンが所有するヒドコート・マナーの庭園管理に関わる会議などで意見に行き違いがあり、わだかまりがありました。

また、アメリカのポール・バーデンは近年公表した記述の中で、この品種は1920年にはアメリカで育成されていたことが確認されたこと。1912年に出版されたエレン・ウィルモットの著作のなかで、ペルシャに’Gul e Reschti /Rose de Resht’が存在すると記述されていることを指摘しています。

英国の園芸評論家トィッグス・ウェイ(Twigs Way)も著作『娘たち、草むしりする婦人そして女王さまたち(Virgins, Weeders and Queens: A History of Women in the Garden)のなかで秀逸なコメントを残していますのでご紹介します。

デザイナーというよりは植物学者として知られるナンシー・リンゼイの名は、多くの植物の品種に見られ、かなり興味深い…
(そのうちのひとつ)ナンシー自身が自分のものだと主張した植物は、ロズ・ド・レシュであった。この深みのある豊かなベルベットのようなダマスクローズは、1945年にナンシーが植物探しの旅のペルシャで”発見”したとされる。
頻繁に開花する花は、直径4~5cmで、非常に甘く強いダマスクの香りを放つ。その神秘性は、発見と消失の謎によってさらに高まっている。

ひとつの可能性のある説明は、1843年にリバーズ・オブ・ロンドン社のカタログに記載されているものがそれではないかとされている点だ…しかし、それは不確かで記載された品種名も’ポンポン咲きの返り咲き種(Pompone perpetual)’となっていて特定できない。

(エキセントリックな園芸家であった)エレン・ウィルモットは、彼女の著書”原種バラ”(The Genus Rosa)”の中で、失われたペルシャのバラ、グル・エ・レシュティについて言及している…

そしてナンシー・リンゼイは、1945 年にペルシャへの謎めいた、記録に残っていない植物探索遠征中に、この美しい バラを”再発見”したとされている。(註:ほんとうに遠征したのかと疑っている?)
(Virgins, Weeders and Queens: A History of Women in the Garden)

この品種がヨーロッパに紹介されたのはナンシーが市場に提供する以前であったことは事実のようです。
卵型のかたちよい葉。深い色合いの花。華やかな、しかし、静かな気品に満ちた品種です。どんな経緯があるにせよ、この品種を再び世に紹介したナンシーに感謝するべきでしょう。