どんなバラ?
9cmから11cm径、ルーズなロゼッタ咲きとなり花芯に緑芽ができることもあります。
花色は淡いピンク、中心部は色濃く染まり、外縁部の淡い色合いとのの対比が実に優雅です。
強く香ります。
幅広の、深い葉緑、固く強い枝ぶり、120cmから180cm高さのシュラブ。
春一季咲き。明るい花色ゆえアルバにクラス分けされることが多いですが、ピンクのガリカとする研究家もいます。
育種者、育種年
1815年以前にジャック=ルイ・デスメ(Jacques-Louis Descemet )により育種されました。
交配親の詳細は不明です。
ジャン-ピエール・ヴィベール(Jean-Pierre Viber)が1820年から発行していたバラ解説書『バラの命名とクラス分けに関する考察(Observations sur la Nomenclature et le Classement des Roses)』の1820、1830年版に品種名クローリス(Chloris)、デスメ作出として記載されています。
デスメがヴィベールへ商権、施設などを移譲したのが1815年でした。ここでは確実性を重視して、1815年以前に育種されたとしておきます。
ガリカとして記録されており、混乱を招いたこともあります。
これは、19世紀初頭に活躍し権威のあった、フランスのグラブロー(Gravereaux)が、自ら発行したバラ・カタログのなかで、クローリスをガリカとしたため言われています。ふたつの品種は同じものを指すであろうと考えられ、ガリカとするのは間違いだとされてきましたが、DNA検査の結果では、逆にガリカに由来するものであると確認されたようです。(Suzanne Verrie, “Rosa Gallica”, François Joyaux,,”La Rose de France”, R. Phillips & M. Rix, “Best Rose Guide”)
ここでは最新の結論には反しますが、花形や樹形からはアルバとしての特徴が色濃く出ていることから、従来通りアルバのままとしました。
品種名クローリスの由来
クローリス(”若緑”という意)は、ギリシャ神話に登場するニンフです。
ギリシャの詩人オウィディウス(BC43-AD17)による長編詩『祭暦』の中で、花の女神フローリスが自分は実はクローリスであったのだが西風ゼピュロスに誘惑され結婚した後にゼピュロスの手によりフローリスに変身したのだと語っています。
イタリア、ルネッサンス期の大画家ボッティチェリ(1444-1510)が1482年頃描いたとされる、春(La Primavera)の右の部分で、西風の神に誘惑されなんとするクローリスが描写され、その隣にクローリスから変身したフローラが立っています。フローラの吐く息は、バラの花になったとする言い伝えから、フローラの口元からはバラの花がこぼれ落ちている様子も描かれています。
サンドロ・ボッティチェッリはおそらくこの『祭暦』の記述をもとに名画『プリマヴェーラ(La Primavera;”春”)』を制作したのだろうと言われています。
絵画においては、左から右へ、クローリス、フロール(フローラ)、ヴィーナス、三美神(タリア、ユーフラシーヌ、アグライア)を描いています。
デスメはクローリス、フロール(フローレス)、タリア、ユーフラシーヌ、アグライアというバラを育種しています。おそらく、これらの品種はこのボッティチェッリの傑作へのオマージュではないかと思われます。





