チューリップなどの球根は春の庭には欠かせないものですが、華やかな反面、翌年の開花がむずかしいものが多くなっています。
それでも球根のなかには毎年開花してくれるものも少なくありません。
冬から春にかけて、年ごとに開花するじょうぶな球根についてまとめてみました。
早咲きスイセン
まだ寒さが残る早春、庭はまだ枯れ姿ばかりが目についていますが、よく観察すると多くの植物たちはすでに小さな芽をつくり、春の日差しを待ちかねています。
球根の中には、ペチコート・スイセン(ナルキッスス・ブルボコディウム/Narcissus bulbocodium:ヒガンバナ科、スイセン属)や寒咲き日本スイセン(N. tazetta var. chinensis/ナルキッスス var. キネンシス)のように温暖気候下では12月の開花が期待できる早咲き球根もあります。


冬枯れの庭のなかに花色が見えると心和みますが、本格的な春を迎えると、追いかけるかのように多くの球根類がつぎつぎと開花してゆきます。品種それぞれの開花時期をよく見極め、早春から始まる“花”のリレーを計画し楽しむことは園芸の醍醐味でもあります。
ここでは、3月から本格的に始まる球根類の開花のリレーを計画し、華やぐ春庭のプランを作成してみました。なお、プランは千葉県北西部のケースです。
ハナニラ(Ipheion uniflorum/イフェイオン・ウニフロルム:ネギ亜科、ハナニラ属)
ハナニラは野菜のニラの近縁種です。ニラに似た独特のにおいがします。南アメリカ原産で25種ほどの原種が知られています。

出回っている主な品種は、星型、藤色気味のライトブルーの花を咲かせるウニフロルム属を元にした園芸種が一般的です。花色がピンク花に変化したものもあります。その他、少し早めに開花することが多い近縁種の黄花ハナニラ(Nothoscordum sellowianum)も近年、入手可能となりました。


ユニフロルム系のハナニラはいちど植えこむと分球したり、こぼれ種で増えるので長い期間、植えっぱなしのまま楽しむことが出来ます。
有毒の”ハナニラ”と無毒の野菜”花ニラ”
注意していただきたいことがあります。ハナニラは有毒ですので食用にはなりません。
野菜として広く流通しているニラ(Allium tuberosum)の中にはつぼみを含めて食用にする“花ニラ”(‘テンダ―ポール’、’ニラむすめ‘等)があり、収穫を控えていると秋に花冠状の白花を咲かせます。毒性の“ハナニラ”と“食用花ニラ”は違います。お間違えないようくれぐれもご注意ください。

グランドカバーとしてのハナニラとコンパニオンたち
ハナニラは晩春になると地上部が枯れて休眠します。しかし、晩秋から初冬にかけて新芽を伸ばして地上に現れロゼッタ状になります。植えこんで数年を経過してよく分球すると枯れこみが目立つ庭に緑の絨毯のように広がり、よいグランドカバーとなります。

ハナニラは千葉北西部の場合、3月中旬から4月初旬に開花しますが、早咲き球根のスノードロップ(Galanthus nivalis/ガランスス・ニヴァリス:ヒガンバナ科、ガランザス属)、クロッカス(Crocus:アヤメ科、クロッカス属)、ミニアイリス(Iris reticulata/イリス・レティクラータ:アヤメ科、アヤメ属)などはハナニラよりも少し早く開花します。これらの早咲き球根をハナニラと同じ場所に混栽しておくと、ハナニラの緑葉を分けて、クロッカスなどの花だけが顔を出すという演出をすることができます。



早春の球根と宿根草の競い咲き
宿根草であるプリムラ・ヴルガリス(Primula vulgaris:サクラソウ科、サクラソウ属)、プリムラ・ヴェリス(Primula veris:サクラソウ科、サクラソウ属)、ベロニカ ‘オックスフォードブルー/ジョージアブルー’(Veronica peduncularis ‘Oxford Blue’/’Georgia Blue’:オオバコ科、クワガタソウ属)、ビオラ ‘ラブラドリカ‘(Viola labradorica:スミレ科、スミレ属)なども球根類と競い合うように花咲きます。ハナニラのベッドにスノードロップ、クロッカス、ミニアイリスを合わせ、それを囲むようにプリムラ、’オックスフォードブルー’、’ラブラドリカ’を植栽すると、早春を彩る華やかな“小花のグループ”を作ることができると思います。




ムスカリ(Muscari、キジカクシ科、ムスカリ属)
ムスカリは、ハナニラと同様、初冬から葉を伸ばし、3月中旬から4月初旬に開花します。じょうぶで特に手入れをしなくても毎年開花し、環境によく適応すると群生することもあります。
ブドウの房のような花序となることからブドウ・ムスカリと呼ばれることもあるアルメニアカム種(M. armeniacum)とその交配種がおもに流通しています。冬越しする葉姿はハナニラのように地表をおおうようにではなく、立ち上がり気味となります。そのため、スノードロップ、クロッカス、ミニアイリスなどとの混植にはあまり向いていないと感じています。

なお、あまり流通量していないようですが、ムスカリ・ラティフォリウム (M. latifolium)は幅広の包葉の間から花茎を伸ばす愛らしい花姿をしています。ブドウ・ムスカリよりは繁殖力が劣るようですが、もっと利用されていいように思います。

アネモネ(Anemone coronaria、キンポウゲ科、イチリンソウ属、アネモネ種)
アネモネについては、ヨーロッパ南部(地中海沿岸地域)を中心に100種ほどの原種が知られています。
現在市場に多く出回っているのは、原種交雑種と考えられているアネモネ・コロナリア(A. coronaria)を交配親とした、大輪・多弁となるものです。

原種として一般的なのは、アネモネ・ホルテンシス(Anemone hortensis)、アネモネ・パボニナ(A.pavonina)、これらの交雑によりできたとされるアネモネ・フルゲンス(A.×fulgens)、さらにフルゲンスの交雑によりアネモネ・コロナリア(A.coronaria)などです。



アネモネというと市場に出回っているものはコロナリアを元にした大輪・多弁のものがほとんどでしたが、最近、パボニナ系やフルゲンス系のシングル咲きのものも出回るようになりました。高温多湿にもよく耐える丈夫さが魅力です。草丈も30㎝に満たないことが多く、ひかえめで清楚な印象をうけます。
また、フルゲンス等と同様、堀り上げて過湿を避ける等により夏越しに注意すれば、毎年開花する青花・菊咲きのブランダ種(A. blanda)‘ブルーシェイド/Blue Shade’を使ってみるのも変化が出て楽しいかもしれません。

スイセン(Narcissusu:ヒガンバナ科、スイセン属)
スイセンはチューリップとともに春咲き球根の代表格です。原種は30種ほどですが、園芸種は優に一万を超えるということです。
原種の系列から分類されたり、また八重咲き、ラッパ型、トリアンドロス(下向き)型などの花形で分類されたりします。春にさきがけて開花する2種について記事のはじめにご紹介しましたが、全体を解説するのは大きすぎるので他の機会に解説したいと思います。ここでは4月ころに咲く園芸種6種をご紹介するにとどめます。

ポエティクス系
花期:4月中旬から下旬
草丈:30-60cm
RHS AGM(英国王立園芸協会 Award of Garden Merit)

ラージ・カップ系
花期:4月初旬から中旬
草丈:30-60cm
RHS AGM

シクラミネウス系
花期:4月初旬から中旬
草丈:15-20cm
RHS AGM

トリアンドルス系
花期:4月中旬
草丈:30-60cm
ADS Wister Award(アメリカ水仙協会、最高賞)

タゼッタ系
花期:4月初旬から中旬
草丈:30-60cm
RHS AGM

トランペット系
花期:4月初旬から中旬
草丈:30-60cm
RHS AGM、ADS Wister Award
スノーフレーク(Leucojum aestivum:ヒガンバナ科、スノーフレーク属)
スノーフレークはスイセンと同じヒガンバナ科に属し、スズランに似た白花をつけることから鈴蘭スイセンと呼ばれることもあります。じょうぶで適切な場所に庭植えするとよく分球して数年後には群生します。
上でご紹介したスイセン等を追いかけるように開花します。白花のスノーフレーク、黄花のスイセン、そして以下でご紹介する青花のスパニッシュ・ブルーベルを並べるように植えこむと、白、黄色、青と鮮やかなコントラストをつくることが出来ます。

スパニッシュ・ブルーベル(Hyacinthoides hispanica:キジカクシ科、ヒアキントイデス属)

スパニッシュ・ブルーベルが属しているヒアキンソイデス属は、ヒアシンス(Hyacinthus)やシラー(Scilla)に近い仲間で、原種としては7種が知られています。
7種の原種のうち、上の画像、ヒアキンソイデス・ヒスパニカ(H. hispanica)とヒアキンソイデス・ノンスクリプタ(H. non-scripta)の2種が主に栽培されています。いずれもいくつかの園芸品種があり、両者の交配によって育成されたものもあります。
ノンスクリプタ種は「イングリッシュ・ブルーベル」とも呼ばれ、樹木の株元などに群生しイギリスの春の田園を青く彩る風景として知られています。花穂は細身で、花茎の上部が曲がって枝垂れるように咲き、花は片方向に寄っています。イギリスでは両種が混在するようになってしまい、しだいにヒスパニカが優勢になっているようで自生地の減少が懸念されています。

チューリップ(Tulipa:ユリ科、チューリップ属)
魅惑の花、チューリップについては、興味深い長い歴史があり、流通しているだけでも数千に及ぶという多くの品種があります。それ故、整理するのは簡単ではありません。詳細は『チューリップ』をご覧いただけたらと思いますが、ここでは植え込み後、数年間は開花が期待できるフォステリアーナ系と原種系の品種をいくつかご紹介することにします。

‘マダムレフェバー/レッドエンペラー’
‘Mme. Lefeber/Red Emperer’
分類:Fosteriana(F)
花期:超早生(3月下旬~)
草丈x株幅:30-40cm x 10cm

‘フレーミングプリッシ―マ’
‘Flaming Purissima’
分類:Fosteriana(F)
花期:超早生(3月下旬~)
草丈x株幅:30-40cm x 10cm

‘スプリンググリーン’
‘Spring Green’
分類:Viridiflora(V)
花期:晩生(4月下旬~)
草丈x株幅:30-40cm x 10cm
RHS AGM

クルシアナ ‘レディジェーン’
Clusiana ‘Lady Jane’
分類:Miscellaneous(M)/ Botanical(B)
花期:中生(4月上旬~)
草丈x株幅:20-30cm x 10cm
RHS AGM

クルシアナ ‘ペッパーミントスティック’
Culsiana ‘Peppermint Stick’
分類:Miscellaneous(M)/ Botanical(B)
花期:中生(4月上旬~)
草丈x株幅:25-35cm x 10cm
RHS AGM

タルダ
Tarda
分類:Miscellaneous(M)/ Botanical(B)
花期:早生(4月上旬~)
草丈x株幅:10-20cm x 10cm
RHS AGM
チューリップに関しては、個人的には毎年繰り返し咲くことは期待できないのですが、4月中旬咲きのトライアンフ系と4月下旬咲きのユリ咲き系の組み合わせが好みです。
4月中旬は年越しした宿根草もまだ芽吹きはじめですので、30~50㎝高さのトライアンフ系とのバランスがよく、4月下旬になると宿根草も若芽を伸ばしてくるので、30~60㎝と少し高性で花茎がカーブしたりして優雅なユリ咲き系を用いるという考え方です。
ダッチアイリス(Iris x hollandica:アヤメ科、アヤメ属)
ダッチアイリスはスペイン原産のアイリスを交配親とした園芸種の総称です。おもにオランダで育種され市場へ投入されたことから、“ダッチ(オランダ)”と呼称されています。
アイリスには日本由来のアヤメ(綾目)、カキツバタ(白筋)、ハナショウブ(黄筋)などに加え、ジャーマンアイリスなど数多くの品種がありますが、日本古来のものには栽培に多少注意を払う必要があり、また、ジャーマンアイリスの場合は深植えを嫌い、アルカリ土壌が好ましいなど、やはり庭植えの他の植物とはいくぶんか異なる管理をしなければなりません。
その点、ダッチアイリスは青、黄、青黄二色などに花色が限定されますが、庭に植栽後は放置しても毎年開花することが多く、管理がとても楽です。


開花は5月ころ。ブルーのスパニッシュ・ブルーベルの花の後を追いかけるようにブルーやイエローの花が開くのは、春の楽しみでもあります。
アリウム(Allium:ヒガンバナ科、ネギ属)
アリウムはネギ属の学名です。野菜の長ネギ、玉ネギ、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、アサツキなども同じ属に含まれています。500種とも1,000種とも言われるほど多くの原種が知られていて、北半球全体にひろく自生しています。
美しい原種の交配がすすめられ、大型種、小型種など多彩な園芸種が生み出され庭を飾ってくれています。関東西部以南では、大型種のなかには夏季堀りあげて保管するのがよいものもありますが、ここでは人気のある6種をご紹介します。
ネギやニンニクなどと同属アリウムはとても味わい深い属ですので、できれば後日アリウムを詳しく解説したいと思います。

Allium ‘Globemaster’
花期:晩春から初夏
花径/草丈:15㎝/70-90cm
RHS AGM

A. cristophii ’Star of Persia’
花期:晩春から初夏
花径/草丈:20㎝/40-50cm

A. ‘Mount Everest’
花期:晩春から初夏
花径/草丈:15㎝/90cm
RHS AGM

A. holllandicum ‘Purple Sensation’
花期:晩春から初夏
花径/草丈:8㎝/70-90cm
RHS AGM

A. sphaerocephalon
花期:晩春から初夏
花径/草丈:3㎝/70-90cm

A. ‘Millenium’
花期:初夏から盛夏
花径/草丈:5㎝/30-cm
2018 PPOY(Perennial Plant of the Year)