バラ、特にオールドローズが好きで名前の由来や育種の経緯などを調べています。
宿根草や葉色が美しい草花や灌木などをアレンジしたバラ咲く庭を愛でるのも長年の夢です。

ロール・ダヴー(Laure Davoust)~美しい不思議ランブラー

ロール・ダヴー

ロール・ダヴー(Laure Davoust)

ロール・ダヴーは、淡いピンクに花開く、もっとも美しい、それゆえに最も愛されているランブラーだと言ってもいいのではないでしょうか。

‘Laure Davoust’ Photo/Rudolf [CC BY SA-3.0 via Rose-Biblio]

5cmから7cm径ほどの小・中輪、花弁がぎっしりと詰まったカップ型、またはロゼッタ咲き、花芯に緑芽が生じることが多い花形、競い咲くような豪華な房咲きとなります。
開花当初は強めのピンク、すぐに退色して淡い色合へ変化してゆきます。
幅狭の深い色合いのつや消し葉、細めの枝ぶり、500cm高さ以上になるランブラーです。淡いピンクに花開くランブラーとしてこよなく愛されている品種です。

育種の由来

1834年、フランスのジャン・ラッフェイ(Jean Laffay)により育種されました。
フランスで発行されていた園芸誌”園芸家と愛好家のための園芸評論(Revue Horticole, ou Journal des Jardiniers et Amateurs)”の1835年版に記載されたのが初出のようです。その際、クラス名はムスクローズとされていました。しかし、数年後にはノイバラ系ランブラー(Hybrid Multiflora)にクラス分けされるようになり、それが今日まで踏襲されています。

from “Les Roses” by Hippolyte Jamain and Eugène Forney, 1873
from “Journal des Roses”, 1878

じつはこの品種は多くの謎に包まれています。

ロール・ダヴーってだれ?

ロール・ダヴーはフランスの女性名ですが、どんな人であったかはよく分かっていません。

この品種が公表された1834年、フランスはいまだ英雄ナポレオンの記憶が色濃く残る時代でした。彼の麾下で活躍し、“常勝将軍”という異名でも知られたルイ=ニコラ・ダヴーという軍人がいます。この品種は彼の縁者である女性にささげられたのではないかという説もあります。しかし、ダヴー将軍(最終的には元帥)の親類縁者には“ロール”という女性は見当たらないので、ロール・ダヴーがいったいどんな女性だったのかは分からないままです。

別名、同一品種

バラについての詩的で精妙な解説で知られるアメリカ、カリフォルニアに圃場を構えていたフランシス・E・レスター(Francis E. Lester)は、著作『わが友、バラ(My Friend The Rose)』(1942刊)のなかで次にように解説しています。

… 私たち(妻とふたり)は、数十年前の火事で焼け落ちた家屋の跡地に案内され…そこで、廃墟と化した家の跡地に案内されました…(そこで)25 セント硬貨(2.5㎝径)ほどの大きさの八重咲きのピンクのつるバラが 20 フィートもの長さの曲がりくねった枝を垂らしていました。これらのバラはすべて 75 年以上前にここで育ち、何世代にもわたって放置されていましたが、それでも毎年自由に、大胆に、元気に咲いていたとのことです。

レスターはこのファンド・ローズにマジョリー・W・レスター(Marjorie W. Lester)という妻の名前をつけました。

また、オランダ、ドイツなどでは現在もアバンドナータ(Abbandonata:“打ち捨てられた”)という別名で出回っています。名前からしてレスター夫妻のケースと同様、墓地あるいは廃墟などで発見された、いわゆるファンド・ローズとも感じられますが、この呼び名は比較的最近見られるようになったので、あるいは1967年制作のイタリア映画『誘惑されて捨てられて(Sedotta e abbandonata)』に由来しているのかもしれません。

マジョリー・W・レスターはかなり早い時期にロール・ダヴーと同一品種だとされ、品種名としては、以後はあまり使われなくなりましたが、アバンドナータは、ロール・ダヴーと同一品種だとされた後も一部ではそのままの品種名で提供されています。

ふたつの”ロール・ダヴー”

国内においては明らかに違う品種(二つ、三つ、いや四つだとも)がロール・ダヴーという同名で出回っているという点がよく言及されています。

左が国内流通のロール・ダヴー、右がフランス、ロベール農場由来のものです。

画像から違いは判別しにくいかもしれませんが、何点か違いがあります。

 花径・花形小葉
国内流通のもの2,3㎝径、平たいロゼッタ咲き 花芯のグリーン・アイが顕著葉先が尖り気味のつや消し葉。表皮はフランス由来のものよりザラついているフランス由来よりわずかに長め
フランス由来5~7㎝径ほど、多少ボリュームのあるロゼッタ咲き グリーン・アイは生じるが、オランダ由来のものほどはっきりしていないオランダ由来のものより、濃色となる。尖り気味の葉先だが比較すると、丸みを帯びているあまり長くない

ノイバラ系ランブラーにクラス分けされていることへの疑問

ロール・ダヴーはノイバラ系ランブラーにクラス分けされることがほとんどですが、なかには疑問を呈している研究家もいます。

敬愛するロザリアン、グラハム・S・トーマスは彼の著作『グラハム・S・トーマス・ローズブック(Graham Stuart Thomas Rose Book)』(1994 )のなかで次のように解説しています。

ロール・ダヴー。1834年または1846年、フランス、ラッフェイによる。
滑らかな茎と長く尖った中緑の葉、たくさんの花が咲き、通常分類されるノイバラ系よりもセンペルヴィレンス系とするほうが適切ではないかと感じている。

マゼンタ・ピンクのつぼみから、花はほぼ平らに開くが、カップ状、ロゼッタまたはクォーター咲きとなる花形。花芯には緑芽が生じる。

花は、柔らかなライラック・ピンクからホワイト気味へと退色してゆく。甘い香り。イェーガー氏(トーマス氏の友人か)は15フィート以上に成長すると言っているが、私が持っている株は8フィートを超えていない。

英国の庭園史の研究家であるチャールズ・クエスト=リットソン氏は2003年刊行の著作『世界のクライミング・ローズ(Climbing Roses of  the World)』のなかで、グラハム・トーマス氏よりもずっと明確にノイバラ系ランブラーではないと述べています。

センペルヴィレンスとノワゼットの交配種であるこのバラは、開花したては非常に魅力的だ。花はカップ状で重なり合うこともあるが、通常はクォーター咲きで、美しくカールした花弁が密集して現れる。花びらは外側が濃いピンクで中心に向かって色が薄くなり、ボタン芽があり、人気の矮性チェリーであるプルヌス・グランデュローサ・シネンシスを思い起こさせる。

日陰で育てない限り、花色はほとんど褪せてしまい、シーズン中ごろには花房はシュガー・アーモンド・ピンクと白の塊になってしまう。

開花したときはとても魅力的なこの品種は、花房が密集しすぎて個々の花がひどく枯れて、花びらが落ちないまま茶色に変わるため、後に最も魅力のないバラの ひとつとなってしまう。

濃色の葉色は、典型的なセンペルヴィレンスだと言える。生育は気温の高低に依存する。温暖な気候のもとでは、このロール・ダヴーは 8 メートルにも達する。

このたび、別に起こした記事で、ノイバラ系ランブラーの育種の経緯をたどってゆきました。その過程で気づかされたことがあります。

19世紀に入り、バラの育種は香り高い大輪花の育種が目指されていましたが、原種ノイバラあるいはノイバラ交配種のカタエンシスなどが一部交配に用いられたものの、当時の育種の主流となっていなかったという点です。赤花を咲かせるクリムゾン・ランブラーが交配親となって濃色のランブラーが生み出されるようになるのは、ずっと後、1900年代に入ってからです。

不思議だと思ったのは、このノイバラ系ランブラーとして、もっとも完成された美しさを誇るロール・ダヴーが1834年(1846年説もある)にジャン・ラッフェイによって育種・公表されたとされていた点です。これは、クリムゾン・ランブラーなどが交配親として使われるようになるよりも50年以上も前だということです。

グラハム・トーマス氏やクエスト=リットソン氏が言及したように、ロール・ダヴーをノイバラ系ではなく、センペルヴィレンス系のランブラーにクラス分けすると、このあまりにも突出した出現を論理的に説明できるのはではないでしょうか。