バラ、特にオールドローズが好きで名前の由来や育種の経緯などを調べています。
宿根草や葉色が美しい草花や灌木などをアレンジしたバラ咲く庭を愛でるのも長年の夢です。

原種系ランブラー~ムスクローズと近縁種

Rambling Rector

バラ科、バラ属のシンスティラエ節(Sec. Synstylae)には多くの原種ランブラーが属しています。ノイバラ、照葉ノイバラの他、ここでご紹介するムスク・ローズ(Rosa moschata)もそのひとつです。
小輪または中輪の白花、やわらかな枝ぶりで数メートル高さに達するランブラーとなる樹形というのが一般的な特徴です。
ムスク・ローズ(Rosa moschata)は、麝香(ムスク)の香りがするランブラーとして、ヨーロッパでは古くから親しまれています。

ロサ・モスカータ(Rosa moschata))

‘ロサ・モスカータ/ムスク・ローズ(Rosa moschata)’

7cmから9cm径、シングル・平咲きとなる花形。
花色は純白、また、クリーミィ・ホワイト、花芯のイエローがアクセントとなり全体的な印象としてはクリーム色という印象を受けます。
開花時期は他の品種よりもずっと遅く、秋ころになることもあります。そのため、古来、秋咲きバラとして珍重されてきました。
いわゆる、ムスク・ローズ系と呼ばれる強い香り。
幅狭の明るい色相の葉、たおやかに枝を伸ばし、350cmから500cm高さとなるランブラーとなります。

品種名の由来など

美しい街コールマールなどでも知られるフランス、アルザス地方を本拠地としていた博物学者ヨハネス・ヘルマン(Johannes Herrmann)は1762年に公刊した『バラに関する最初の植物医学論文(Dissertatio Inauguralis Botanico-Medica De Rosa)』のなかでロサ・モスカータに言及しています。
従来はこれがムスク・ローズの最初の学術上の記述であると考えられていて、ムスクローズの学名はRosa moschata Herrm.とされてきました。

” Dissertatio Inauguralis Botanico-Medica De Rosa” Published by Johannes Herrmann, 1762

しかし、実際には1500年代からムスクローズに関する記述は次の例をはじめとしていくつも存在していたことが分かっています。現在ではムスク・ローズが、どこから、また、いつヨーロッパへもたらされたのかはよく分かっていません。

ムスクローズについての文献上の最初の記述

1540年、スペインの植物学者であるニコラス・バウティスタ・モナルデス(Nicólas Bautista Monardes )は著書『バラとその部分について(De rosa et partibus eius)』を刊行しました。その中で、”ロサ・ペルシカ(ダマスケナ)”として記述しているバラは、じっさいにはムスク・ローズのことだろうと解釈されています。これが、現在判明しているムスクローズのもっとも早い記述のようです。

…アレクサンドリア人は一般的にロサ・ペルシカと呼んでいます…バラは私たちの地域にも存在しますが、喬木というよりは灌木で、(葉は)緑色です。多くの鋭い棘があります。私たちのバラは葉が密生しています。5~6枚の花びらを持つ花が多数咲きます。色は白と赤(ピンク)の中間です…原産地であるペルシャの地域にちなんで、ペルシカエと呼ばれています。…
…この木の花は胃で溶けて猛毒となります。このバラは、イタリア人、フランス人、ドイツ人、そして様々な人々からダマスケナと呼ばれており、シリアの高貴な都市ダマスカスから来たと信じられています。私たちの地域では、このバラが注目を集めるようになったのはほぼ30年前のことです。最初は有力者や貴族の間で貴重な薬でしたが、今では本当にどこにでも手に入ります。
(Google翻訳利用)

以上のように、古くから、その香りゆえに愛され続け今日へ至っていますが、自生地も小アジア、アフリカ北部、南ヨーロッパと諸説があり、定説はありません。また、現在、ロサ・モスカータ(ムスク・ローズ)として流通している実株がはたして、原種なのか、それとも、交配雑種であるのかも判然としていません。

グラハム・トーマスによる解説

多くの研究家がムスク・ローズの由来について言及していますが、特にグラハム・トーマスが著書『Graham Stuart Thomas Rose Book』のなかで“The Mystery of the Musk Rose”と題して記述しているものが有名です。

私がシンスティラエ節を調べはじめたとき、ムスク・ローズがミステリーに包まれ見極めが容易なものではないとは考えていなかった。ケンブリッジの植物園の40フィートにおよぶ大株やキューの王立植物園の巨大株という実例があり、両株ともムスク・ローズとして多くの著書に掲載されていた…しかし、両株とも細く長めの小葉で初夏に豪勢に開花するもののそのまま結実してしまうものだった。古来伝えられているムスク・ローズは秋開花のものであり楕円形の小葉のものだった…

わたしはムスク・ローズは南西ヨーロッパ、北アフリカあるいはマデイラ島からもたらされ、芳香と遅めの開花の性質ゆえに栽培されあずまやを覆ったり大きめの灌木として庭で栽培されるようになったのだと思う…

わたしは1963年の晩秋にミッデルトン・ハウス(訳注:E.A.Bowlesが本物のムスクローズだと記述している株が植栽されている庭園)を訪問した。ハウスの北西壁面のフェンスに当該のバラは開花していた。それは疑いなくオールド・ムスク・ローズだった…

その年、増殖した枝から開花した花はすべてダブル咲きであったため、ふたたび当惑してしまった…

ダブル咲きは頻繁というわけではないがしばしば発見されるようだ…

ロサ・モスカータ・プレノ(Rosa moschata pleno)

グラハム・トーマスが言及したダブル咲きとなるムスク・ローズは今日でも多く栽培されています。
花弁が多いだけで、ほかの性質はシングル咲きのものと変わりありません。

‘ロサ・モスカータ・プレノ(Rosa moschata pleno)’ Photo/Rudolf Bergmann [CC BY SA-3.0 via Rose-Biblio]

16世紀にヨーロッパへもたらされ、以来深く愛されてきたムスク・ローズです。長い年月のあいだに近縁種、交配種なども世に紹介されてきました。

デュポンティー(Dupontie)

‘Dupontie’

5cmから7cm径、シングル咲きの花が数輪ほど集まる”群れ”咲きとなります。
花色は白、熟成すると花弁縁紅色がでることが多いです。中程度のムスク系の香り。
枝ぶりはたおやか、ランブラーとなる樹形ですが、250から350cm高さほどですので、ランブラーとしては小型の範疇にはいるかと思います。

品種名の由来など

1817年、ジョゼフィーヌのバラ・コレクションのアドバイザーであったフランスのアンドレ・デュポン(André Dupont)により育種されたと記録されています。ただ、デュポンは熱心なコレクターではあっても、育種は行っていませんでしたので、原種交配種のひとつとして彼のコレクションのなかにあったものかもしれません。
交配親の詳細は不明ですが、種親はムスク・ローズ、花粉にガリカが使われたのだろうという解説が主流です。ムスク・ローズ交配種としては比較的小さな樹形であること、花色にわずかですが紅がでることから、ガリカの影響が感じられてということかと思います。

カラフルなボタニカル・アートで高く評価されている英国の園芸年誌『The Botanical Register: Consisting of Coloured Figures of Exotic Plants Cultivated in British Gardens』 vol.10,1824にこの品種の美しい品種の絵が残されています。

“The Botanical Register: Consisting of Coloured Figures of Exotic Plants Cultivated in British Gardens” vol.10,1824

この絵は、昨年6月に園芸協会の庭園で描かれ、ヴェルサイユのプロンヴィル氏によって同協会に寄贈されました。

直立して枝分かれする低木で、高さ約 4 フィート。
枝は濃い緑色で、灰白色を帯び、時には無棘で、時には密集した不等な短い鎌状の棘と剛毛で覆われる。
葉は密生し、硬く、ほぼ常緑。小葉は卵形長楕円形で、尖端が尖り、単純鋸歯があり、表面はしわがあり、光沢があり、平滑、裏面は灰白色を帯び、平滑。葉柄と一次脈には毛があり、散在する鉤状の棘で覆われている。托葉は線形で、全縁で、付原形、先端は棘状。
集散花序は約 5 個で、花は柄があり、花柄と小花柄は棘毛で覆われている。苞は卵形で、尖端が尖り、反り返り、繊毛があり、腺がある。花は展開し、大きく、白く、ピンクがかっている。花弁は倒心形で、5 枚または 7 枚。萼筒は楕円形で、剛毛がある。萼片は複葉で腺がある。花盤は目立つ。花柱は円柱状に合着する。果実は倒卵形で滑らか、橙色。萼片は落葉する。
(Google翻訳、一部修正)

プリンセス・ド・ナッソー(Princesse de Nassau)

’Princesse de Nassau’

7㎝から9㎝径、セミ・ダブルまたは丸弁咲きの花が春いっせいに開花し、豪華な房咲きとなります。
ライト・イエローの花色として登録されていますが、クリームあるいは純白となることが多い花色です。
軽く香ります。
250cmから350cmほど柔らかな枝を伸ばす大きめのシュラブですが、ランブラーとして扱うのが適切だと思います。
遅咲きする性質があり、ロサ・モスカータ・オータムナリス(R. moschata ‘Autamnalis’;秋咲きムスク・ローズ)という名で呼ばれることもあります。

品種名の由来など

1829年にはフランス・パリ郊外でナーサリーを運営していたジャン・ラッフェイ(Jean Laffay)により育種・公表されました。
19世紀後半になるとハイブリッド・パーペチュアルを数多く育種し“ハイブリッド・パーペチュアルの父”と称賛されるラッフェイですが、この品種はラッフェイが育種を開始した初期のものにあたります。その当時彼はチャイナ・ローズを交配親としてさかんに利用していたことが知られています。それゆえ、この品種はムスク・ローズといずれかのチャイナ・ローズとの交配ではないかという解説が説得力があるように思います。(Peter Beales, “Classic Roses”)

“Karoline von Oranien-Nassau-Diez, Princess of Nassau-Weilburg” Painting/Pierre Frédéric de la Croixédéric de la Croix [Public Domain via Wikimedia Commons]

この品種はルクセンブルグ大公ウィレム5世の摂政を勤めた、大公の実姉であるナッソー家の貴婦人カロリーネ・フォン・オラニエン=ナッサウ=ディーツ(Karoline von Oranien-Nassau-Diez, Princess of Nassau-Weilburg; 1743-1787)へ捧げられたのではないかと思われます。

カロリーネはピアノをよく演奏し、若きモーツアルトがピアノ・ソナタ6曲(K.26-K.31)を彼女に捧げたことでも知られています。


なお、同名・異種のバラとして、ガリカのライト・ピンクの花色のものが市場に出回っているようで、混乱があるようです。

ナスタラーナ(Nastarana)

‘Nastarana’

3cm径ほどの小輪、セミ・ダブルの花が房咲きとなりますが、平咲きとなる花形がみごとです。
花色は白、わずかに淡いピンクが入ることもあります。
強い、ムスク系の香り。
幅狭で、葉先がとがった、縁のノコ目が強くでる半照り葉、直立性の強い枝ぶりですが、枝はするすると長く伸びるので、大株になると優雅にアーチングします。250cmから350cm高さのシュラブ、クライマー/ランブラーとして取り扱うことも可能です。

品種名の由来など

1879年、フランスのE.F. ピッサール(Ernest François Pissard)がペルシャで再発見したいわゆるファンド・ローズのひとつです。そのことから、ペルシャン・ムスクあるいはロサ・モスカータ・ヴァリエガータ・ナスタラーナと呼ばれることもあります。”Nastan”はペルシャ語で野生バラを意味するとのことです。
ムスク・ローズとチャイナとの交配により生じたのではないかと判断する研究家が多く、ノワゼットにクラス分けされることも多いのですが、ハイブリッド・ムスクの先駆的な品種であるとも、また、ムスク・ローズの変種とも見られることもあるなど、どのクラスに属するべきか定説はないようです。ここではムスク・ローズのひとつとしました。

ポリアンサ・グランディフローラ(Polyantha Grandiflora)

‘Polyantha Grandiflora’ Photo/Epibase [CC BY SA-3.0 via Wikimedia Commons]

5cmから7cm径、シングル咲きの花が房咲きとなります。
花色は白またはクリーム色。強いムスク香がします。
時に株丈が10mに達することがあるなど、巨大株になることが知られています。
耐寒性ばかりではなく耐暑性にもすぐれていることから、景観用に利用されることが多いようです。

品種名の由来など

1886年、フランスのJ-A ブルネ(Jean-Alexandre Bernaix )により育種・公表されました。

著名なプラントハンター、ロバート・フォーチュンが日本から持ち帰ったとされるノイバラ交配種のポリアンサ(Rosa polyantha)と大輪白花を咲かせるノワゼットのブラン・プール(Blanc Pur)の交配により育種されたとされています。そのことから、ノワゼットとされたり、ノイバラ交配種とされたりすることもありますが、花形、開花時期、樹形などの性質から、ムスク・ローズにクラス分けするのが適切だと思います。

ブルネは19世紀末、マダム・スピオン・コシェ(Madame Scipion Coche)、スヴェニール・ド・マダム・レオニー・ヴィノ(Souv. de Mme. Léonie Viennot)、バロア・アンリエッタ・スノワ(Baronne Henriette Snoy)など、世紀末を飾るにふさわしい美しいティーローズを残したことで知られています。
このポリアンサ・グランディフローラはブルネの育種したものとしては例外的な性質のものでした。

ムスク・ローズの近縁原種

ムスク・ローズの近縁種でランブラーとして植栽される美しい原種バラがあります。代表的なものをいくつかご紹介したいと思います。

ロサ・ブルノイー(Rosa brunoii)

‘Rosa brunoii’

3cmから7cm径、シングル平咲きの花がピラミッド状と表現されることもある競い合うような房咲きとなります。
花色は白。ムスク系と呼ばれる香り(中香)
細め葉先がとがり気味の、くすみのあるつや消し葉。トゲは多くはありませんがフックした大きめのものです。柔らかな枝ぶり、500cmを超える大型のランブラーとなります。

品種名の由来など


1820年、英国のロバート・ブラウン(Robert Brown)によりヨーロッパへ紹介されました。品種名”brunoii”はブラウンにちなんだものです。
ヒマラヤ地域に自生していることから、ヒマラヤン・ムスク・ローズ/Himarayan Musk Roseと呼ばれることもあります。

自生地はインド、カシミール地方、ブータンなどのヒマラヤ地域、アフガニスタンなど標高1,500mから2,400mの高山地帯です。
自生地域によってかなり変容が見られます。古い時代、このうちのひとつがヨーロッパへもたらされ、それがムスク・ローズの名で流通するようになったのではないかという説が今日、有力になりつつあるようです。
そのことから、このロサ・ブルノイーをロサ・モスカータ・ヴァリエガータ・ネパレンシス(R. moschata var nepalensis;ネパール産ムスク・ローズ)と呼ぶこともあります。

1916年、英国のジョージ・ポール・JR(George Paul Jr.)が公表したールズ・ヒマラヤン・ムスク・ランブラー(Paul’s Himalayan Musk Rambler)は今日でもじょうぶで美しいランブラーとして人気が衰えることがありませんが、このブルノイーから生み出されたものです。。

ポールズ・ヒマラヤン・ムスク(Paul’s Himalayan Musk Rambler)

‘Paul’s Himalayan Musk Rambler’

3cm径ほどの、小さな丸弁咲きの花が、ひしめき合うような房咲きとなります。
淡いピンクの花色、春、いっせいに開花する様子は、遅れ咲いた満開の桜のような爽やかな印象を残してくれます。
ムスク系の香り。
大きめの葉、灰色がかった、落ち着いたつや消し葉。柔らかな、まっすぐに伸びる枝ぶり、順調に成育すれば、数年後には500cmを超えるほどまで枝を伸ばす、ランブラーです。耐病性に優れ、耐陰性もあわせ持つ強健な、”完璧な”品種のひとつです。

品種名の由来など

1916年、イングランドのジョージ・ポール・Jr(George Paul Jr.)により公表されました。
ロサ・ブルノイーといずれかのムスク・ローズ交配種との交配により育種されたのではないかと言われています。

ロサ・アビッシニカ(Rosa abyssinica)

‘Rosa abyssinica’ Photo/Malcolm Manners [CC BY SA-3.0 via Rose-Biblio]

3cmから5cm径、シングル咲きの花。花色は白。強く香りますが、ムスク・ローズとは少し異なる香りのようです。
灰緑きみの葉が特徴的ですが、あまり大株にはならず200㎝高さほどのやわらかな枝ぶりのシュラブとなるようです。

品種名の由来など

1805~1810年ころ英国の植物学者ロバート・ブラウン(Robert Brown)によりエチオピアで発見され、1820年、園芸学者のジョン・リンドレー(John Lindlay)が公刊した年誌『Rosarum Monographia』 で世に紹介しました。
数少ない、アフリカ乾燥地に自生する原種バラです。
”abyssinia”はアフリカ大陸の西部”角”と呼ばれる地域の古名で、今日のエチオピアとほぼ重なります。

‘Rosa abyssinica’ from “Rosarum Monographia” 1820 Authored by John Lindley

ロサ・ロンギクスピス(Rosa longicuspis)

‘Rosa longicuspis’

3cmから5cm径、シングル咲きの花。花色は白。
強いムスク・ローズの香り
明るい色合いの照葉、500㎝高さを超える大型のランブラーとなります。茶褐色の茎と品種名ロンギクスピス(長いトゲ)の命名由来の元となった鋭い紅色のトゲが特徴的です。

品種名の由来など

インドのアッサム地方、中国の雲南省などの標高1,000mから2,000mの高地に自生しているとされています。

英国の植物学者ジョセフ・ダルトン・フッカー(Joseph Dalton Hooker)はインド北部において熱心に植物採集を行っていました。イタリア、ボローニャ大学の植物学教授であったアントーニオ・ベルトローニ(Antonio Bertoloni)は1861年、フッカー・コレクションの検証を行った際、この原生バラをロンギクスピスと命名しました。

同一品種?~ロサ・ムリガニ(Rosa mulliganii)

英国のもっとも著名な庭園のひとつ、シシングハースト・キャッスルには白花を咲かせる植物の植栽で知られる”ホワイト・ガーデン”があります。この庭園のパーゴラを飾る白バラはロサ・ムリガニ(Rosa mulliganii)と呼ばれる品種です。実はこのムリガニはロンギクスピスと酷似していて、両品種は同一種だ、いや、別品種だとの両論があって今でも結論は出ていないようです。

‘the White Garden of Sissinghurst Castle’(中央に見える白バラがムリガニ)

ムリガニー(Rpsa mulliganii)は、中国における植物蒐集で知られるジョージジョージ・フォレスト(George Forrest)によって英国王立園芸協会のウィズリー(RHS, Wisely Garden)へ送られた種子の実生から生じ、当時園長補佐であったブライアン・マリガン(Brian Mulligan)にちなんで命名されたものです。

ランブリング・レクター(Rambling Rector)~ムスク系orノイバラ系?

‘Rambling Rector’

3cm径、セミ・ダブルまたはダブル咲きの小輪の花が春、咲き競うような房咲きとなります。
クリーミィ・ホワイト、また、次第に純白へと退色する花色。花芯のオシベのイエローとのコントラストが見事です。
絢爛たる香りが漂います。
旺盛に枝を伸ばすランブラーです。600cm高さx600cm幅になると想定する必要があると思います。壁面を覆ったり、また、大きめのパーゴラなどに誘引して春、枝垂れ咲きとなる様を鑑賞したりする楽しみかたができる品種です。このランブリング・レクターこそがムスク・ローズ系ランブラーの到達点を示す品種だと思っています。

品種名の由来など

Rambling Rectorとは「ぶらぶら散歩している牧師」といった意味かと思います。
以下の解説のとおり、1900年ころ、英国で育種されたとみられていますが育種者は誰だったのかは分かっていません。
ノイバラとムスク・ローズの影響が顕著であるため、両原種の交配によるのだろうと考えられています。クラス分けもノイバラ系とされたりムスク・ローズ系とされたり揺れ動いていますが、落葉しないこともあるので「ムスク・ローズだな」というのが個人的な印象です。

グラハム・トーマスは著作”Graham Stuart Thomas Rose Book” 1994のなかで次のように語っています。

ほぼ、純粋なノイバラと言っていいが、花形はセミ・ダブルだ…1912年版のデージー・ヒル・ナーサリーのカタログにリストアップされていた。

この記述に対し、当のデージー・ヒル・ナーサリーは次のように訂正しています。

あらゆるバラの中でも最も生命力の強いものの一つ… 美しく、ほとんど枯れない葉と、大きな白い花房を持つ
非常に生命力の強いバラ。花は八重咲きで、大きな直立した房状に咲き、クリーム色から白く色づく。この品種に特有な芳醇な香り。
トーマスによると、このバラは1912年にデイジー・ヒルのカタログに初めて掲載されたとされているが、それ以前にのカタログ (1901-1902) にも掲載されていた。トム・スミス(註:スコットランドのバラ育種家か?)がこのバラに命名した可能性もあるが、カタログには彼がこのバラを育成または発見したという記述はない。もしスミスがこのバラに命名したとしたら、彼がどの牧師館で入手したのかを知るのは興味深いだろう。ランブリング・レクター(散歩中の牧師)が誰だったのか、私たちはおそらく永遠に知ることはないだろう。(Google翻訳、一部修正)

文学に登場する香り高いランブラーとしてのムスク・ローズ

香り高いムスク・ローズはしばしば文学上で称賛されてきました。

シェイクスピアの戯曲『真夏の夜の夢/A Midsummer Night’s Dream』、第2幕、第1場で、妖精の王、オーベロンがいたずら小僧のパックへ、女王タイテーニアのまぶたへ”惚れ薬、恋の三色すみれ”を塗るよう指示する場面では、次のように描写されていて、ムスク・ローズをシェイクスピアが香り高いバラとして挙げていることが広く知られています。

野生の匂い草が生えた場所があるだろう。/I know a bank where the wild thyme blows,

桜草が茂り、すみれがうなだれて咲く所だ。/Where oxlips and the nodding violet grows,

甘い香りのスイカズラや、甘いムスク・ローズと香りノイバラ(エグランティン)が天蓋のようにおおう、/Quite over canopied with luscious woodbine, With sweet musk roses and with eglantine:

その場所で時々、夜、タイテーニアは眠っているんだ。/There sleeps Titania sometime of the night,

25歳という若さで結核に倒れた英国の詩人、ジョン・キーツ(John Keats:1795-1821)にもムスク・ローズを歌った美しい詩が残されています。詩は友チャールズ・ウェルズからムスク・ローズを送られたことに応えるものでした。

バラを送ってくれた友に

遅い時間に気持ちよい野をのんびりと歩いていた時、
ヒバリがみずみずしいクローバーの茂みから露を振り払い飛び立つ時、
冒険好きな騎士たちが傷だらけの盾を再び手に取する時、
野生の自然が生み出す最も甘美な花、咲き誇ったばかりのムスク・ローズを見た。
夏にその甘美な香りを最初に放ったのは、
女王タィテーニアが振るう杖のように、優雅に枝を伸ばしたまさにこの花だった。
そして、その香りを堪能しながら、
庭植えのバラの方がはるかに優れていると思った。
しかし、ああ、ウェルズよ!君のバラが私のところにやって来た時、
その美しさに私の感覚は魅了されてしまった。
柔らかな声で、優しい願いを込めて、
平和と真実と、抑えきれない友情を囁いていた。
To a Friend who sent me some Roses

As late I rambled in the happy fields,
What time the sky-lark shakes the tremulous dew
From his lush clover covert;—when anew
Adventurous knights take up their dinted shields:
I saw the sweetest flower wild nature yields,
A fresh-blown musk-rose; 'twas the first that threw
Its sweets upon the summer: graceful it grew
As is the wand that queen Titania wields.
And, as I feasted on its fragrancy,
I thought the garden-rose it far excell'd:
But when, O Wells! thy roses came to me
My sense with their deliciousness was spell'd:
Soft voices had they, that with tender plea
Whisper'd of peace, and truth, and friendliness unquell'd.