キキョウ(桔梗、Platycodon grandiflorus):多年生草本
- 学名:キキョウ科キキョウ属/Platycodon grandiflorus
- 別名:バロンフラワー(Ballon Flower:”風船花”)、チャイニーズ・ベルフラワー(Chinese Bellflower)
- 花色:ブルー、紫、白、ピンク
- 花期:6月~9月
- 原産地:日本、中国、東シベリア、朝鮮半島
- 草丈x株幅:30㎝x60㎝
晩春から初秋までちらほら開花するキキョウは、秋の七草のひとつとして日本人に深く愛されてきました。原産地は日本など東アジア。色変化や花弁数が増える変異はありますが、種としては一種のみです。国内の自生地も少なくなっており、環境省指定のレッドリスト、絶滅危惧II類 (VU)に指定されています。
太い根は、「桔梗根」という咳止めの生薬に利用されています。
品名、学名などの由来
英名のバルン・フラワー(Ballon Flower)はぷっくりと膨らんで風船のような形となるつぼみからの命名です。

学名Platycodonは花形から。ギリシャ語で「広い」を意味する “platys “と「鐘」を意味する “kodon “から来ています。
原種としては一種のみですが、”青”の花色からの変化、また5弁のシングル咲きから変異した株があることが知られています。
花色の変化



弁数の変化


現在園芸店などで入手可能なキキョウは生育サイクルが短いこと、鉢植え向きであることから、”ポップスター”など矮性種がほとんどです。原種に近い60㎝ほどの草丈となる株の植栽を希望される方は種から育苗されるとよいと思います。
花もちが良く、華やかな花色で人気の”トルコキキョウ”はキキョウの仲間ではなく、リンドウ科ユーストマ属(Eustoma grandiflorum)のもの。耐寒性に欠けるため一年草として扱われています。
アメリカ、テキサス州近辺でのみ自生しているのになぜ”トルコ”と銘打たれているのか、また、園芸植物として品種改良が進められているのはほぼ日本だけだという不思議があります。

また、常緑の剣葉、青花を咲かせ結実も青い”キキョウラン(桔梗蘭)/ディアネラ”もキキョウの仲間ではなく、ワスレナグサ亜科ディアネラ属(Dianella ensifolia)に分類されています。

和歌、童話のなかで
山上憶良が残した和歌
「風まじり 雨降る夜
の 雨まじり 雪降る夜は 術
もなく 寒くしあれば …」は下層階級へも暖かい目を向けていた万葉の歌人山上憶良の『貧窮問答歌』の冒頭です。
学に秀で、遣唐使の一員として唐に渡って最新の学問を学び、その令名を讃えられながらも憶良は下級官吏のまま生涯を終えたました。多くの短歌、長歌が残されています。万葉集に取り上げられた野草を愛でる歌。
秋の野に 咲きたる花を 指折りて かき数ふれば 七種
の花(『万葉集』巻8-1537)
萩の花 尾花葛花
なでしこの花 女郎花
また藤袴
朝がほの花(『万葉集』巻8-1538)
前の歌で、秋の野の七草をあげ、次の歌でそれらを名前を並べています。
歌の最後「朝がほ」は、今日、わたしどもが知っている朝顔をさすのではなく、桔梗のことだというのが一般的な解釈だとのことです。
朝顔は奈良時代末、遣唐使がもたらした外来種であり当初は薬草として利用されていて”野に咲く花”ではないというのがその理由です。
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』で描写される桔梗いろの空
八章「鳥を捕る人」
…あすこへ行ってる。ずゐぶん奇体だねえ。きっとまた鳥をつかまえへるとこだねえ。汽車が走って行かないうちに,早く鳥がおりるといゝな。」と云った途端,がらんとした桔梗いろの空から,さっき見たやうな鷺(さぎ)が,まるで雪の降るやうに,ぎゃあぎゃあ叫びながら,いっぱいに舞ひおりて来ました。するとあの鳥捕りは,すっかり注文通りだといふやうにほくほくして…
賢治は星空をたびたび「桔梗色の空」と表現しており、研究家たちは賢治がその言葉を使ったときの心のありかたを探索しているようです。
色ばかりではなく、賢治がとりあげる言葉ひとつひとつには深淵な味わいがあるように思います。賢治の研究家原子朗氏はそれらを丹念に追い、『宮沢賢治語彙辞典』という大著を上梓しています。