1906年、バルビエ兄弟によりフランソワ・ジュランヴィルが育種・公表された後、ウィックラーナ交配種の公表ラッシュはおだやかなものに変わりました。
下垂するランブラーを庭植えするという庭愛好家の要望が低調になったのではなく、鮮やかな花色でより大輪花を咲かせ、返り咲き性を持ち合わせた品種群、のちにラージフラワード・クライマーというクラス名のもとカテゴライズされる新たな品種がつぎつぎに市場へ提供されるようになったことが主な理由だと思います。
それでも、品種群(=クラス)の終わりは”常に美しい”と言えます。以下、フランソワ・ジュランヴィルの後を追い、フィナーレに向けて登場した美しい品種を公表年に従ってご紹介することにします。
アレクザンドル・ジロ(Alexandre Girault)

7cmから9cm径、開花すると花弁が大きく開き平咲きとなることが多い花形。花芯は白く色抜けすることが多く、またに小さな花弁が密集してボタン芽ができることも。
花色はストロング・ピンク、時にクリムゾンに近い花色となったり、また、花芯が色抜けして、オレンジ・イエローが出たりと、色変化が非常に大きいことが知られています。
フルーティな強い香り。
明るい色合いの照り葉、350cmから500cm高さまで達する大株となるランブラーです。シュートを盛んに出すため、ピラー仕立てには不適、大きめのフェンス、パーゴラなどで春の開花を楽しむのが、この品種の特徴をもっとも生かす方法ではないでしょうか。
育種の経緯など
1907年、フランスのバルビエール兄弟(Barbier Freres & Compagnie)により育種・公表されました。
種親はウィックラーナ、花粉親にはピンクのティー・ローズ、パパ・ゴンティエ(Papa Gontier )が用いられました。
パリ郊外のバラ園、ロザリー・デライのフェンスを覆いつくしているランブラーとして知られています。
エクセルサ(Excelsa)

2cmから3cm径の小さなポンポン咲きの花が競い合うような房咲きとなり、みごとです。
花色はミディアム・レッド(ARS)として登録されていますが、実際にはディープ・ピンクとしたほうが良いように思います。
丸みの強い、小さな、深い色合の照り葉。非常に柔らかな枝ぶり、350cmから500cm高さへ及ぶランブラーとなります。
育種の経緯など
1908年、アメリカのM.H. ウォルシュ(Michael H. Walsh)により育種・公表されました。
種親はウィックラーナ、花粉親はクリムゾン・ランブラー(Crimson Rambler)とのこと。これはピンクのウィックラーナ・ランブラー、ドロシー・パーキンスのクエスト=リットソン説と同じ交配です。
それゆえでしょうか、ふたつの品種は花色に違いがあるだけで葉形も樹形もよく似ていて、実際このエクセルサはレッド・ドロシー・パーキンスという別名でも流通しています。
エクセルサから新たなランブラーも生まれています。ひとつは1950年ころに英国のA. ノーマン(Albert Norman)により公表されたクリムゾン・シャワー(Crimson Shower)。さらに1986年には返り咲き性を得たスーパー・エクセルサ(Super Excelsa)がドイツのK. ヘッツェル(Karl Hetzel)から公表されています。今日ではともに元品種のエクセルサよりも愛されているように思います。
クリムゾン・シャワー(Crimson Shower)

スーパー・エクセルサ(Super Excelsa)

ミス・エリエット(Miss Helyett)

9cmから10cm径、40弁を超える多弁、小さな花弁が密集してダリアに似かよった丸弁咲きの花形となります。
淡い、しかし温かみをふくんだサーモン・ピンクの花色。熟成すると、全体に淡いピンクへと変化します。
香りはわずかです。
幅広で大きめ、深い色合の照り葉。細く柔らかな枝ぶりの300cmから450cmほどに達するランブラーです。
育種の経緯など
1908年、フランスのフレデリック・フォーク(Frédéric Fauque)により育種されました。
種親はウィックラーナ、花粉親にはピンクのティー・ローズ、エルネ・メット(Ernest Metz)が用いられました。
『ミス・エリエットは』はフランスの文豪モーパッサンが1884年に公刊した短編、『ミス・アリオット(Miss Harriet)』を原作として作詞作曲され、1891年に初演されたオペレッタ。
オペレッタは作曲エドモン・オードラン(Edmond Audran)、作詞マキシム・ブシュロン(Maxime Boucheron)による3幕のオペレッタ。
物語は、極めて厳格なヒロインが、ピレネー山脈で転落事故から自分を救ってくれた見知らぬ男性に、下半身を露わにした姿を見られてしまったことから、彼と結婚する義務があると信じ込んでしまい、様々な騒動が巻き起こる様子を描いているとのこと、今日では公演される機会は少ないようです。
アヴィアテュール・ブレリオ(Aviateur Bleriot)

6cmから8cm径、中輪、丸弁咲きの花形。
白またはライト・イエロー、全体に淡いピンクに色づくこともある花色です。
軽く香ります。
幅広の、非常に深い緑色の照り葉。柔らかな枝ぶり、350cmから500cmまで旺盛に枝を伸ばすランブラーです。
育種の経緯など
1910年、フランスのフレデリック・フォーク(Frédéric Fauque)により育種されました。
種親にウィックラーナ、花粉親にはイエローのノワゼット、ウィリアム・アレン・リチャードソン(William Allen Richardson)が用いられました。
品種名の由来
アヴィアテュール・ブレリオ(Aviateur-“飛行士” Bleriot:Louis Bleriot、1872-1936)はフランスの航空機製作にたずさわった人物です。1909年、英国の新聞社デイリー・メールが公募したドーバー海峡横断飛行に応じ、自ら設計した複葉機によりフランスのカレーからイングランドのドーバーまで最初の飛行に成功しました。

その所要時間は37分ということでしたが、当時の航空機は40分弱しか航続時間がなく、カレーからドーバーへの飛行は文字通り命がけのものでした。
当時、航空機による英国入国は想定外で、法律にも対応した規定がなかったため、イギリスの税関当局者は、フランスから国境を越えて飛来したブレリオ XIの書類上の取扱に困惑した。やむなく税関は、飛行機を「ヨット」と見なして入国手続を行った、という有名な逸話があります。
この「歴史的飛行」の達成により、ブレリオはデイリー・メールの懸賞を獲得したのみならず、フランス政府からレジオンドヌール勲章を授与され、出発地はその偉業を記念して、ブレリオ海岸(Blériot-Plage)と命名されました。(Wikipedia etc.)
フリューレン・オクタヴィア・ヘッセ(Fräulein Octavia Hesse)

7cmから9cm径、しばしば40弁を超えるルーズな丸弁咲きまたはカップ咲き。
淡いイエローまたは白花が単輪、または数輪の房咲きとなります。
フルーツ系の軽い香り。
小さめ、丸みを帯びた照り葉、柔らかな枝ぶり、350cmから500cm 高さに達するランブラーです。
育種の経緯など
1909年、ドイツのヘルマン・アルブレヒト・ヘッセ(Hermann Albrecht Hesse:1852-1937)により育種・公表されました。
種親にウィックラーナ、花粉親に淡いイエローの大輪花を咲かせるHT、カイゼリン・オーグスト・ヴィクトリア(Kaiserin Auguste Viktoria)が使われました。
命名は育種者ヘッセの娘にちなんだものと思われます。
グラハム・トーマスは著作『the Graham Stuart Thomas Rose Book』(1994)のなかで「アルベリック・バルビエによく似ているが、それより美しい」と評しています。
ヘルマン・A・ヘッセは当時大きな園芸植物圃場を運営していたようですが、バラの新品種はこのフロイライン・オクタヴィア・ヘッセ以外は知られていません。
ポール・ノエル(Paul Noël)

7cmから9cm径、30弁ほど、小さな花弁が花芯にひしめき合うように密集する、丸弁の花形。3から5輪の小さな房咲きとなり、春は株全体を覆いつくすような多花性となります。
開花時は、暖かみを感じさせる、ミディアム・サーモン・ピンクの花色、成熟すると、明るいピンクへと変化します。
軽く香ります。
小さな、まるみのある、深い色合の照り葉。誘引しないと、地を這って伸びてゆくような、非常に柔らかな枝ぶり。たおやかにアーチングする枝ぶりをクラスの特徴とするウィックライアナ交配種の中にあってもとりわけ柔らかな枝ぶりになると言ってよい品種です。350cmから500cmまで枝を伸ばします。
育種の経緯など
1910年、フランスのR・タン(Remi Tanne)により育種・公表されました。
ウィックラーナを種親に、オレンジ・ピンクのティーローズ、ムッシュ・ティリエ(Mons. Tillier)を花粉親として交配されました。
ピンク・オレンジのランブラー、ポール・トランソンと、花色も樹形も名前も似ているため、しばしば混同されてしまいます。
一番大きな違いは、ポール・ノエルは弱いながらも返り咲きする性質を有すること、ポール・トランソンは春一季咲きです。
シルバー・ムーン(Silver Moon)

9cmから11cm径、9から16弁ほどのセミ・ダブル、平形の花形。3輪から5輪ほどの小さな房咲きとなります。
とがり気味の淡いイエローのつぼみは開花すると、純白となります。長いイエローのシベ、風にそよぐ広く大きめの花弁の様子がこの品種の魅力です。香りはわずか。
中くらいのサイズのかたち良い、深い緑のつや消し葉。比較的柔らかな枝ぶり、500cmからときに900cmまで枝を伸ばす、大型のランブラーですARS(American Rose Society)への品種登録としては、ラージ・フラワード・クライマーとされているのですが、多少強めの枝ぶりとはいえ、ランブラーとしての性質がまさるように思いますので、ここでは、ウィックライアナ系ランブラーとしました。
育種の経緯など
1910年、アメリカのW. ヴァン・フリート(Dr. Walter van Fleet)により育種・公表されました。
交配親については異説もあるようですが、通説は次の通りです。
種親:無名の交配種(ウィックライアナと花芯が淡いピンクに色づく、クリーミィ・ホワイトのティーローズ、デヴォニエンシスとの交配による)
花粉親:ロサ・ラエヴィエガータ/Rosa laevigata(難波野イバラ)
花単輪からはそれほど強い印象を受けませんが、盛時の開花期に出会ったとき、その美しさに感嘆すると思います。
チャールス・クエスト=リットソン氏が著作のなかで「温暖な気候下では、もっとも美しい、白花のランブラーのひとつだ…」(Quest Riston, Charles, “Climbing Roses of the World”)と評しているのもうなづけます。
フラゲツァイヘン(Fragezeichen)

9cmから11cm径、セミ・ダブル、オープン・カップ形の花が豪華な房咲きとなります。
花色は開花時は深いピンク、熟成すると色が淡くなり、明るいピンクへと変わってゆきます。
香りはありません。
幅狭ながらかなり大きめの照り葉。柔らかな枝ぶり、350cmから500cm高さまで枝を伸ばすランブラーとなります。
育種の経緯など
1910年、ドイツのアマチュアの育種家であったJ・ボートナー(Johannes Böttner )により育種・公表されました。
種親はピンクのウィックラーナ交配種、ドロシー・パーキンス(Dorothy Perkins)花粉親はミディアム・レッドのハイブリッド・パーペチュアル、マリー・バウマン(Marie Baumann)が用いられたと記録されています。
ウィックラーナ系ランブラーとしては、花が例外的なほど大きく、葉も大きめで、非常に特異な印象を受けます。フラゲツァイヘン(クェスチョン・マーク)という実に変わった品種名も、その特異性に由来するのかもしれません。
ウイックモス(Wichmoss)

3cmから5cm径、セミ・ダブルの花が20輪ほどにも集まる房咲きとなります。
淡いピンクの花色は開花後さらに色が薄まって、純白へ近づきます。
軽く香ります。
中くらいのサイズの深い葉緑、茶褐色の小突起(モス)が密集した枝ぶり、300cmから400cm高さの立ち性のシュラブ、またはランブラーとなる樹形です。春、シルバー・ピンクの花を楽しむことはもちろんですが、花後の茶褐色のモス(小突起)が密生した枝ぶりが庭造りの際のアクセントとして利用されることも多いようです。
育種の経緯など
1911年、フランスのバルビエール兄弟(Barbier Freres & Compagnie)により育種・公表されました。
ウィックラーナを種親、明るいピンク、返り咲きするモス・ローズ、サルート(Saletto)を花粉親にするという変わった交配により生み出されました。ほかにほとんど類似のない、バラ品種のなかでも特に変わった品種だと言えると思います。ウィックモスとは”モス・ランブラー”といった意味の造語だと思われます。
サンダーズ・ホワイト(Sander’s White)

5cm径前後の小輪、ロゼッタ咲きの花が競うあいような豪華な房咲きとなります。
輝かしいホワイトと表現したいような、明るい花色。
フルーティな甘い香りがします。(強香)
明るい色合いの照り葉、300cmから450cmほどまで枝を伸ばすランブラーです。
育種の経緯など
1912年、英国、ロンドン北部のセント・オルボン(St. Alban)に圃場をもっていたH. F. コンラッド・サンダー(H. F. Conrad Sander)により育種・公表されました。
花や樹形の特徴からウィックラーナ・ランブラーとしてクラス分けされていますが、交配の詳細はよくわかっていません。
コンラッド・サンダーはおもに蘭の生産を行っていて、バラは本種の他はあまり知られていません。
鋭いトゲと野趣に満ちた枝ぶりが特徴ですが、「どんな庭にも似合う…」(”Graham Stuart Thomas Rose Book”)など、華やかな開花の様子が多くのバラ研究家の賛辞を集めています。
グルス・アン・フルアンドルフ(Gruss an Freundorf)

3cmから5cm径、12弁前後のセミ・ダブル、平型の花が、10輪から20輪寄りそうような房咲きとなります。
非常に深い赤、クリムゾンの花色ですが、花弁の基部が白く色抜けしたり、また、花弁に筋のような白く色抜けした線が入ることもあります。
強く香ります。
とがり気味の小さな、深い色の葉。細い枝ぶり、多くはありませんが鋭くフックしたトゲ、300cmから400cmほど枝を伸ばす、中型のランブラーとなります。
育種の経緯など
1913年、オーストリーのF. プラスカック(Franz Praskac)が育種・公表しました。種親は1900年にバルビエ兄弟社が育種・公表したウィックラーナ・ルブラ(Wichrana Rubra)、花粉親にクリムゾン・ランブラー(Crimson Rambler)を用いたと記録されています。
ルブラはウィックラーナとクリムゾン・ランブラーの交配種ですので、3/4はクリムゾン・ランブラー、 1/4がウィックラーナの血を引いているといったところです。
ドナウ(Donau)

3cmから5cm径、10弁前後のセミ・ダブル、丸弁咲きから、こじんまりとしたお皿のような平型となる花形。15輪を超える、競うあうように開花する房咲きとなります。
開花時、クリムゾンであった花色は、パープルの色合が濃くなり、さらに淡く退色してライラックへて移ってゆきます。花弁の基部は白く色抜けすることが多く、花色の様子は、ファルヘンブラウに似通っています。
強く香ります。
葉先がとがった細めの、明るい緑の照り葉。トゲが非常に少ない、柔らかな枝ぶり。旺盛に生育し、450cmから700cmまで枝を伸ばす、大型のランブラーとなります。
育種の経緯など
1913年、この品種もオーストリアのF. プラスカック(Franz Praskac)により、育種・公表されました。
種親はハンガリーのゲシュヴントが育種した、パープルのハイブリッド・パーペチュアル、エリンネルング・アン・ブロッド(Erinnerung an Brod)、花粉親にはウィックラーナ・ルブラ(Wichrana Rubra)が用いられたというのが通説です。ここでも、その説にしたがいましたが、ウィックラーナの特徴である照り葉ではあるけれど、幅狭で、明るい色調の葉の様子からはウィックラーナではなくノイバラの影響を強く感じさせるなど、ウィックラーナ交配種とするには疑問を呈する向きもあるようです。

