バラ、特にオールドローズが好きで名前の由来や育種の経緯などを調べています。
宿根草や葉色が美しい草花や灌木などをアレンジしたバラ咲く庭を愛でるのも長年の夢です。

フジバカマ(藤袴: Eupatorium japonicum)

’Eupatorium japonicum' Photo/Koba-chan [CC BY SA2.5 via Wikimedia Commons]

フジバカマ(藤袴: Eupatorium japonicum)はキク科ヒヨドリバナ属の多年草。日本の秋を彩る草花、秋の七草のひとつでもあります。

万葉の時代から知られているフジバカマ

万葉の歌人として名高い山上憶良(やまのうえのおくら)が秋の七草について残した和歌があります。

秋の野に 咲きたる花を 指折りて かき数ふれば 七種
ななくさ
の花(『万葉集』巻8-1537)
萩の花 尾花葛花
おばなくずはな
 なでしこの花 女郎花
をみなへし
 また藤袴
ふぢばかま
 朝がほの花(『万葉集』巻8-1538)

このように、万葉の時代から知られていますが、実は日本の固有種ではなく、朝鮮半島または中国から渡来したと考えられています。

平安時代に入り、葉や茎に芳香があることが知られると貴族の間で、蘭(らん)」と呼ばれて愛でられ、乾燥させて刻んで匂い袋に入れたり、入浴剤として利用されました。

草丈は100㎝から150㎝ほど、開花期は晩夏から秋にかけて。日照のよい、河川敷などいくぶんか湿潤な土壌を好みます。以前は群生地も見られたようですが、開発が進んだ影響からか現在、環境省が定める準絶滅危惧(NT)に指定されています。(Wikimedia、2024.11.01閲覧)

学名 Eupatoriumの由来

紀元前2~1世紀、小アジア(現在のトルコ)にあったポントス国の国王であったミトリダテス6世エウパトル(Mithridates VI Eupator)にちなんで命名されました。

ミトリダテス6世は覇権をめぐって当時の共和政ローマとの間で抗争を繰り返しました。西アナトリアを征服した際には、そこに住む全てのローマ人、男女8万人すべてを殺戮したという残虐さも伝えられています。
紀元前66年、ついに命運つき、敵に包囲されたミトリダテス6世は毒薬を呑んで自害を図りますが果たせず、忠実な部下に自分を殺すよう命じとされています。
自死の試みに用いた毒薬はヒヨドリバナ属の一種を精製したものであったとのこと。そのことから、王の名EupatorにちなみEupatoriumという属名となりました。(Wikipedia、2024.11.01閲覧)

属名の分化

ユーパトリウムはかつては大きな属で数百種に及ぶの原種を含んだとても大きな属でした。現在ではDNA解析が進み、20以上の新しい属に分化されました。園芸に利用されている主な種は以下のようなものです。

  • ユーパトリウム(Eupatorium):別名ボーンセット(bonesets)、スネークルート(snakeroots)など。30~60種ほど。E. cannabinumのみヨーロッパ、北アフリカに自生している。他は主に北米地域および東アジア原産。日本に自生しているフジバカマ(E.  japonicum)およびヒヨドリバナは(E.  makinoi)はこの種に属する。
  • アゲラティナ(Ageratina):ユーパトリウムと同様に別名スネークルート(snakeroot)。300種ほど。アメリカ、メキシコ、西インド諸島原産、種名はアゲラタムに似た花形から。
  • ユートロキウム(Eutrochium):別名ジョー・パイ・ウィード(Joe-Pye weeds)、アメリカ、カナダ原産、5種ほどが知られる程度だが、E. maculatum ‘Atropurpureum’を交配親とした園芸種が多数存在する。
    種名はギリシャ語の”eu”(よく)と”troche”(車輪)から。互生の葉が輪生することに基づく。
  • コノクリニウム(Conoclinium):別名ブルーミストフラワー(Blue Mistflower)、アメリカ東南部および中西部原産。数種が知られる程度だが、美しい青花が愛でられ、白花への変異種とともに庭植えなどに使われている。

旧ユーパトリウムが20以上の属に分かれてしまったのですが、現在でも園芸種の表記には”ユーパトリウム”と表記されることが多くなっています。

国内で見かけるフジバカマと近縁種

国内各地の山道脇や河川堤などに自生しているヒヨドリバナ(Eupatorium makinoi)は同じユーパトリウム属ですがフジバカマとは別種です。両種はよく似ていて判別が難しいですが、葉が三裂するフジバカマと卵型の葉のヒヨドリバナという違いでだいたい区別できます。
じつはその他にも、湿潤地などで自生している品種があり、葉形もフジバカマとヒヨドリバナの中間的な性質を示すものもあり判別を難しくしています。

  • ヒヨドリバナ:葉は対生で、たまご形、縁は細かな鋸歯、草丈100~120㎝
  • サワヒヨドリ:葉は対生・たまご形、緩やかな鋸歯、輪生状となることが多い。ヒヨドリバナより湿生を好む。草丈30~80㎝
  • ハマサワヒヨドリ:サワヒヨドリの矮性株。海岸べりなどに生育している例が多いので”ハマ”が冠されている。草丈20~50㎝
  • フジバカマ:葉は対生・三裂していることが多い。湿生地を好むのはヒヨドリバナと同じ。準絶滅危惧種(NT)草丈100~150㎝
  • マルバフジバカマ:丸葉であることからその名があり国内各地で見られるが、実は北アメリカ原産の外来種。毒性があるため鹿などの野生動物が食さないことなどもあり、森林などへも進出している。草丈100~150㎝

園芸種の特徴

前述したように、旧ユーパトリウムがいくつもの属に分かれてしまった後も、園芸種の表記には”ユーパトリウム”とされていることが多く、市場では、古来のフジバカマ由来、ヒヨドリバナ由来、北アメリカ由来などが混在してしまっています。

ヨーロッパやアメリカにおいては、自国のの原種などを元に、花色、咲き方などをより魅力的に、また、ときに200㎝高さを超えるといった大株となりすぎる草丈を矮性化するなどの改良が加えられました。それらの品種は国内市場へ投入される際、多くは、”西洋フジバカマ”と呼ばれることが多くなっています。

以下は、現在比較的入手が容易なものです。

ユーパトリウム・カンナビヌム
Eupatorium cannabinum

ユーパトリウム・カンナビナム(Eupatorium cannabinum)
“Eupatorium cannabinum” Photo/Aporia.j [CC BY SA4.0 via Wikimedia Commons]
  • 別名:ヘンプ・アグリモニー(Hemp-Agrimony)、ホーリーロープ(Holy Rope)など
  • 花色:ピンク+藤色(モーヴ)の鈍色
  • 草丈:120~180㎝
  • 開花:晩夏~晩秋
  • 原産地:ヨーロッパ、北西アフリカ、トルコなど

ユーパトリウム・カンナビヌム(Eupatorium cannabinum)はヨーロッパ地域に自生する唯一のユーパトリウム種です。種小名のcannabinumuはギリシャ語のCannabis(麻)に由来。一般的にはヘンプ・アグリモニー(麻に似たの意か)、ホーリーロープとして知られています。

E. cannabinum ‘Plenum’はピンク/パープルが濃いめに出る選別種。草丈も100~120㎝といくぶんか低めになります。

ユートロキウム・マクラツム
Eutrochium maculatum

ユートロキウム・マクラツム
(Eutrochium maculatum)
“Eutrochium maculatum ‘Gateway’” Photo/Krzysztof Ziarnek, Kenraiz [CC BY SA-4.0 via Wikimedia Commons]
  • 別名:ジョー・パイ・ウィード(Joe-Pye Weed)など
  • 花色:ピンク+藤色(モーヴ)の鈍色
  • 草丈:180~210㎝
  • 開花:初夏~秋
  • 原産地:北アメリカ

草丈はときに200㎝を越え、株幅も100㎝ほどと大きな株となります。堂々たる株姿に感嘆することも。
葉色も茎も初夏から秋にかけて咲く花色もすべてが鈍色気味となるなど、庭では背景として利用されることが多いです。

葉や茎に芳香を含み、解熱、利尿の効用があることユーパトリウムと同様ですが、とくにこの種がジョー・パイ・ウィードと呼ばれているのにはジョー・パイと呼ばれたアメリカ先住民の呪術士についての言い伝えがあるためです。古くからある話のためか、様々なバリエーションがあります。だいたいはつぎのような物語です。

16世紀、北アメリカには英国、フランス、オランダなどのヨーロッパ諸国からの移民がそれぞれコロニーを作って必死に開拓に励んでいた時代。
ある英国人コロニーに腸チフスが蔓延し深刻な危機に陥りました。
これに救いの手を差し伸べたのが、先住民モヒカン族の呪術士でしたが、移住者たちは彼と知己のあいだがらであり、ヨーロッパ風なニックネーム、ジョー・パイと呼んでいました。
彼は、病に苦しむ移住者たちにユートリキウム/ユーパトリウムを煎じた薬を飲ませ、危機から救いました。

コロニーの住民たちは、この後、煎じ薬の元となった草をジョー・パイ・ウィードと呼ぶようになりました。

このユートロキウム・マクラツムの代表的な園芸種が’アトロプルプレウム’です。
アトロプルプレウムは原種と同じように200cm高さほどの大株となりますが、これを元品種として矮性となる園芸種が生み出されています。いずれも草丈だけが低いだけで花色、花形などアトロプルプレウムに似通ったものです。そのことから、これらの園芸種はアトロプルプレウム・グループと総称されています。

  • ‘アトロプルプレウム’ (Eutrochium maculatum ‘Atropurpureum’)、草丈200㎝
  • ‘ゲートウェイ’(E. maculatum ’Gateway’)、草丈200㎝
  • ‘ファントム’(E. maculatum ‘Phantom’)、草丈90㎝ほどの矮性種
  • ‘レッド・ドワーフ’(E. maculatum ‘Red Dwarf’)、草丈90㎝

ユートロキウム・デュビウム
Eutrochium dubium

  • 別名:コースタル・プレイン・ジョー・パイ・ウィード(coastal plain Joe-Pye Weed)など
  • 花色:ピンク+藤色(モーヴ)の鈍色
  • 草丈:120~150 ㎝
  • 開花:初夏~秋
  • 原産地:北アメリカ東岸

E. デュビウム種はアメリカ東部海岸の平地にみられる原種です。そのことから、海辺平地・ジョー・パイ・ウィード(coastal plain Joe-Pye weed)と呼ばれています。
草丈は120~150cmほどで、マクラツムよりも小型となります。
よく出回っている園芸種は、以下の2種。命名がとてもおもしろいです。

  • ‘リトルジョー’(E. dubium ‘Littel Joe’)、草丈90~120㎝の矮性種。命名はジョー・パイの小型種だからか。
  • ‘ベイビージョー’(E. dubium ‘Baby Joe’)、草丈60~80㎝で、リトルジョーよりさらに小さいので’ベイビー’

ユートロキウム・フィスツロスム
Eutrochium fistulosum

  • 別名:ホロー・ジョー・パイ・ウィード(Hollow Joe-Pye weed)など
  • 花色:白、わずかに鈍色気味
  • 草丈:150~200cm
  • 開花:初夏~秋
  • 原産地:アメリカ、カナダの東部

種小名の fistulosumはラテン語の fistulosus に由来します。茎が管状/中空になっていることを指すとのことです。
大型種ですが白花が出ることが多いので、庭植えなどで利用されています。
代表的な園芸種は’アイボリー・タワー(E.f. forma albidum ‘Ivory Tower’)’です。200㎝高さ、100㎝幅におよぶ大きな株姿にふさわしいと感じます。

アゲラティナ・アルティシマ ‘チョコレート’
Ageratina altissima ‘Chocolate’

“Ageratina altissima ‘Chocolate’” Photo/David J. Stang [CC BY SA-4.0 via Wikimedia Commons]
  • 別名:ホワイト・スネークルート(White Snakeroot)、マルバフジバカマなど
  • 花色:白、わずかに鈍色気味
  • 草丈:120~180㎝
  • 開花:晩夏~晩秋
  • 原産地:アメリカ、カナダの東部

アゲラティナ属は別種のアゲラタムに似た花形になることから命名されたことにはすでにふれました。
茶褐色の葉色となるものが選別され、’チョコレート’という園芸種名がつけられて流通しています。白花と茶褐色の葉色とのコントラストは、うっとりするほどの美しさです。
関東南西部以南では梅雨から盛夏にかけての湿潤期を越すのがむずかしいこともあるように思います。

和名はマルバフジバカマ。ユーパトリウムの仲間は、尖り気味、あるいは柏葉のような列状となる葉が多いのですが、この種は名前の通り、丸みのある葉が特徴的です。

通称名のスネークルートは、この草が蛇の咬み傷の治療に効果があると信じられていた時代があったことによります。しかし、このアゲラティナ・アルティシマは実際は有毒植物であり、牛や羊などが食害に遭うことがあるとのことです。

ユーパトリウム ‘羽衣’
Eupatorium ‘Hagoromo’

  • 別名:とくになし
  • 花色:ピンク、モーヴ、鈍色気味
  • 草丈:80~120cm㎝
  • 開花:夏~晩秋
  • 原産地:フジバカマorサワフジバカマの変異種か

葉が細裂して風情がある品種です。来歴はよくわかっていません。
古くから国内で流通する種類のため、日本のフジバカマの変異種か、雑種のサワフジバカマの品種ではないかと思われます。

ユーパトリウム ‘ピンク フロスト’
Eupatorium × arakianum ‘Pink Frost’

ユーパトリウム ‘ピンク フロスト’
Eupatorium × arakianum 'Pink Frost'
Eupatorium × arakianum ‘Pink Frost’
  • 別名:斑入りサワフジバカマなど
  • 花色:ピンク+白
  • 草丈:50~80㎝
  • 開花:秋
  • 原産地:フジバカマ+サワヒヨドリの交雑種?

サワフジバカマ(Eupatorium × arakianum)はフジバカマとサワヒヨドリの交雑種だとされています。
‘ピンクフロスト’は、美しい斑入り葉と明るいピンクの花色が美しい品種です。花のない季節でもリーフプランツとして庭を彩ります。

交雑種名アラキアヌムは、小学校での教職のかたわら植物採集・研究をされていた荒木英一氏の標本み基づくものだということです。(http://ptech.cocolog-nifty.com/”花日記”:2024_11_13閲覧)

ユーパトリウム・カピリフォリウム ‘グリーンフェザー’
Eupatorium capillifolium ‘Green Feather’

Photo/Mokkie [CC BY SA3.0 via Wikimedia Commons]
  • 別名:ドッグ・フェンネル(dog fennel)など
  • 花色:鈍色気味の白
  • 草丈:150~200㎝
  • 開花:秋
  • 原産地:アメリカ、本来の自生地は東南部であったが、中西部、北部へ進展している

種小名のcapillifoliumはラテン語の”羽状”という意味。種名の通り、細い裂葉が特徴的です。
高性で草丈200㎝を越えることがしばしばですが、株幅は60㎝ほどで収まることが多いので花壇の後景として、また群生させて茂みとしたり、目隠しにも利用できます。
秋に箒のような白花が開花した後、葉が茶褐色に枯れこむ姿には風情があります。

なお、独立行政法人農研機構により侵入危惧雑草種に指定されていて、牧草地などでは除去に心がけるように表示されています。

コノクリニウム・コエレスティヌム
Conoclinium coelestinum

コノクリニウム・コエレスティヌム
Conoclinium coelestinum
Mistflower (Conoclinium coelestinum blooming in Bird Park, Mount Lebanon
  • ブルーミストフラワー(Blue Mist Flower)、耐寒性アゲラタム
  • 花色:かすれ気味のライト・ブルー
  • 草丈:30~60㎝
  • 開花:晩夏~秋
  • 原産地:アメリカ、本来の自生地は東南部であったが中西部へも進展している

Conoclinium coelestinum は美しい青花が魅力的で、通称ミストフラワーと呼ばれています。
青花のアゲラタムに似ているため、多年草アゲラタムと呼ばれることもあります。白花の’アルバ(alba)’もよく見かけます。

種小名はラテン語、空色または天国のようなという意味です。