赤バラか白バラか、王位をめぐる薔薇戦争
1455年から1485年の30年間、イングランド王位をめぐって赤バラを記章とする王族ランカスター家と白バラのヨーク家が血で血を洗う抗争を繰り返しました。これが名高い薔薇戦争です。

(「白バラを手にし、ランカスター派サマセット公エドムンドを恫喝するヨーク公リチャード」:”Plucking the Red and White Roses in the Old Temple Gardens” by Henry Arthur Payne (1868–1940) [Public domain], via Wikimedia Commons)
時のイングランド王はランカスター家のヘンリー6世、王は精神が不安定でした。抗争の経過は複雑です。おもな争いは次のようなものでした。
1455年、ヘンリー6世に対しヨーク公リチャードが反旗をひるがえし、対抗したランカスター派サマセット公エドムンドはセント・オールバーンズ(ロンドンの北郊外)の戦いで敗死しました。
1460年、リチャードはランカスター派が巻き返しをもくろんだ戦いでも勝利し、ついに念願だった王位に就く直前までたどり着きました。ところが、続いて勃発したウェイクフィールドの戦いでは逆にランカスター派に敗れ、リチャードはこの戦闘で敗死してしまいました。
抗争は続きます。
1461年、ランカスター派を事実上率いていたヘンリー6世の王妃マーガレットは夫の身柄も取り戻し制覇を果たすかと見えたものの、ロンドン占領に失敗してしまいました。ロンドンに入城したのはヨーク派、戦死したリチャードの嫡男エドワードでした。マーガレット王妃と有力貴族の再度の反乱に遭い国外に逃れたこともありましたがついに勝利し、ランカスター派の統帥であるヘンリー6世と嫡男エドワード(同名なのでまぎらわしいですね)を殺害してランカスター家をほとんど根絶やしとしました。そして、エドワード4世として王位につきました。
ところが、1483年、エドワード4世は急死してしまいます。すると、王位を狙っていた王弟リチャード(父のリチャードと同名)は4世の嫡男のエドワード(またまた同名)とリチャード(またまた同名!)を殺害して王位につきます。これが後にシェイクスピアが悪逆王として描くリチャード3世でした。

“リチャード3世(King Richard III )” [Public Domain via Wikimedia Commons]
戦乱はまだまだ収まりませんでした。根絶やしにされたはずのランカスター家にわずかに血のつながるヘンリー・チューダーは亡命先のフランスから帰国し兵を集めていました。リチャード3世はヘンリーとボズワースで争いますが、中立派がヘンリー側に味方したことなどにより敗れ、戦死してしまいました。2012年、埋葬されたという伝承があったレスターで遺骨が発見され、大きな話題になりました。
シェイクスピアは戯曲『リチャード3世』で、リチャードを背骨が湾曲した身障者として描写していました。これはヘンリー7世、8世、エリザベス1世と続くチューダー朝へおもねったためで、リチャード3世は実際とは違っていたのではないかという説もありました。しかし、発見された遺骨からシェイクスピアによる描写はある程度正しかったことが証明されました。

“赤白2色咲きのバラを手にするヘンリー7世(King Henry VII)” [Public domain via Wikimedia Commons]
ヘンリー・チューダーはヘンリー7世としてイングランド王位に就きました。チューダー朝のはじまりです。やがてヘンリー7世はヨーク派エドワード4世の王女エリザベス(エリザベス1世とは違います)を王妃に迎えて両王家の融合をはかり、ランカスター家とヨーク家の王位簒奪の抗争はようやく終焉を迎えました。
ヘンリー7世の息子がヘンリー8世、娘が母親と同名のエリザベス。後の処女王エリザベス1世です。
薔薇戦争にちなんだバラ
リチャード3世、ヘンリー7世にちなんだバラは見当たりません。しかし、薔薇戦争にちなんだバラはいくつかあります。
ロサ・ガリカ・オフィキナリス(Rosa gallica officinalis)- gallica
7cmから9cm径のセミ・ダブル、オープン・カップ形の花。
花色は深いピンク。パープルの色合いが加わることもあります。中心部のイエローの雄しべがアクセントとなります。
強く香ります。
幅狭、ボール紙のようなざらっとした表皮の明るい色調のつや消し葉です。小さな、しかし鋭いトゲが密生する、細いけれど固めの枝ぶり、90cmから120cm高さの、低性のシュラブとなりますが、横張りの性質があり、高さと同じほどまで枝をのばし全体としてはこんもりと、ボリューム感のある樹形となります。
寒冷な気候、日照不足にはよく耐えますが、温暖地域にはなじみにくいことがあり、花つきが悪くなることがあります。
アルバ・マキシマ(Alba Maxima)- alba
7cmから9cm径、17から25弁の丸弁咲きの花形。花芯のイエローのオシベがアクセントとなります。
つぼみのときは淡いピンクを帯びていますが、開花すると純白となる花色。
強く香ります。(強香)
まるみを帯びた、蒼みを含んだ深い色合いのつや消し葉。細いけれど固めの枝ぶり、180cmから250cm高さの直立性のシュラブとなります。
枝は細めのままするすると伸びること、また、あまり枝数が増えない性質もありますので、花壇などで自立させるよりは、ピラー仕立て、あるいは、小さめのアーチや低めのフェンスなどへ誘引するのがよいように思います。
“花”のない季節でも、野趣たっぷりの葉色と樹形はじゅうぶん鑑賞の対象になると思います。耐寒性、耐病性にすぐれ、半日陰にもよく耐える、”頑丈”な手入れを要しない品種です。
アルバ・セミ・プレナ(Alba semi-plena)- alba
8弁ほどのセミ・ダブル、平咲きの花が競いあうような房咲きとなります。
花色は純白。イエローの雄しべとの微妙なバランスには風格がただよい、原種に近いとされるのもうなづけます。
香りは鮮烈です。(強香)一般的にはごく近い品種とされているアルバ・マキシマよりも香りが濃厚となります。
秋に結実してオレンジ色となるヒップスも楽しみのひとつです。
卵型、明るい蒼みを帯びたつや消し葉。固いけれど細めの枝ぶり、180cmから210cm高さの立ち性のシュラブとなります。
V字形の樹形となりがちで、庭植えでは株元がすけがちになります。草丈の低い花やグランド・カバーなどと組み合わせてバランスをとるのがよいと思います。寒冷な気候、日照不足にもよく耐え、よい環境にあれば植えっぱなしでも毎年開花するほどです。
ヨーク・アンド・ランカスター(York and Lancaster)- damask
7cmから9cm径、16弁から25弁ほどの、セミダブルに近いダブル・平咲きの花となります。
薄いピンクがベースとなる花色ですが、時に筆で掃いたように、濃いピンクが現われることがあります。
強い香り。(強香)
ざらりとした感じのつや消し葉。剛毛と数少ないものの鋭くフックしたトゲのある株肌、150cmから210cm高さのシュラブとなります。アーチングする枝ぶりがいかにもオールドローズの雰囲気をかもしだします。
‘ロサ・ダマスケナ・ヴェルシコロール(Rosa Damascena Versicolor)’、’ロサ・ダマスケナ・ヴァリエガータ(Rosa Damascena Variagata)’などの別称があります。

