オフィーリアはシェイクスピアによる悲劇『ハムレット』に登場するヒロイン。恋人ハムレットに父を殺され狂気にとらわれさすらった末、川で溺れて死んでしまいます。彼女を悼み、多くの物語、絵画、音楽などが生み出されました。
オフィーリア(Ophelia)

9cmから11cm径、25弁ほど、高芯咲き、開花するとすぐに花弁が折れ返ります。ハイブリット・ティー(以下HT)の原型になったといわれる、典型的な高芯剣弁咲きとなる花形。
ピンクにわずかにイエローをまぜたようなピーチ・カラーまたは明るいピンク、中心部に強めのピンクが出る花色。
軽く香ります。(中香)
くすんだ、大きく幅のある小葉、固い枝ぶりの、120cmから180cm高さの立ち性のブッシュになります。
育種者、命名の由来など
1912年、イングランドのウィリアム・ポール(William Paul)により公表されました。
フランスのジョゼフ・ペルネ=ドウシェ(Joseph Pernet-Ducher)が育種した、明るいピンクのHTアントワーヌ・リヴォワール(Antoine Rivoire)の実生から育種されたと言われています。しかし、この品種はポールが育種したものではなく、フランスで育種されたものが同農場へ持ち込まれたというのが真相のようです。
高芯剣弁咲きの花は、上品でエレガントな印象を観賞する者に与えたことから、公表当時圧倒的な人気を博しました。今日でも、典型的なHTとして変わらぬ人気を保っています。
シェイクスピア『ハムレット』
このサーモン・ピンクのHTは、シェークスピアの悲劇『ハムレット』に登場するヒロインにちなんでいます。
悲劇は全5幕から成り1601年ころ書かれたと推測されています。デンマークの王子ハムレットが、父王を毒殺して王位につき、母を妃とした叔父クローディアスに復讐する物語です。
シェイクスピアはこの悲劇につづき『オセロ』、『マクベス』、『リア王』を上梓し、のちにこれらが四大悲劇と呼ばれることとなりました。
復讐の念に燃えるハムレットは、狂気をよそおって復讐の誓いを隠しています。ハムレットの恋人オフィーリアは父の殺害に組した宰相ポローニアスの娘でした。
恋人ハムレットのつれない仕打ちに心痛め、さらにハムレットによって父を殺害されるに至り、オフィーリアは狂気に捉われてしまいます。狂ったオフィーリアは、ある日、野に咲き乱れる花を集めていましたが誤って川に落ちてしまいます。しかし、心病んだ彼女は、そのことに心にとめず小唄を口ずさみながら流されてゆき、やがて溺れ死んでしまいます。
オフェーリアの死
第4幕第7場、城内の部屋にいる敵役である王クローディアスとポローニアスの息子レアティーズが立つ場面、そこへハムレットの母であり前王の王妃、そして今は新たな王クローディアの王妃ガートルードが現れ、オフィーリアの死を告げます。
小川のほとりに生えた柳があり/There is a willow grows aslant a brook,
流れのうえに灰色の葉を映しています/That shows his hoar leaves in the glassy stream
(オフィーリアはその柳の枝から小川に落ちたことが伝えらる)
彼女のスカートは広がり/ Her clothes spread wide
人魚のようにしばらく浮いていましたが/And, mermaid-like, awhile they bore her up:」
…
やがて、かわいそうな乙女の歌はとだえ/Pull’d the poor wretch from her melodious lay
川底の泥に沈み死んでしまいました/To muddy death
オフェーリアにちなんだ芸術作品
劇中では単に彼女が溺死したことが告げられるだけですが、多くの文学者、画家の想像力を刺激し、小説や絵画の題材となりました。
絵画では、ラファエロ前派のひとり、英国のジョン・エヴァレット・ミレー(John Everett Millais:1829-1896)が残した『オフェーリア 』が傑作として知られています。

ミレーの『オフィーリア』と夏目漱石の『草枕』
ミレーのこの作品はロンドンのテート・ギャラリーで鑑賞することができるのですが、夏目漱石は、イギリスへ留学していた時期、この絵画から強い印象を受けたのでしょう、帰国後ほどなく発表した『草枕』のなかで、漱石自身を思わせる主人公、「画工(画家)」である「余」は、湯船につかり、仰向けになり、頭を縁で支えて体をゆらゆらと漂わせながら、
「平生から苦にしていた、ミレーのオフェリヤも、こう観察するとだいぶ美しくなる」とこの作品に言及します。
「何であんな不愉快な所を択んだものかと今まで不審に思っていたが、あれはやはり画になるのだ。水に浮んだまま、あるいは水に沈んだまま、あるいは沈んだり浮んだりしたまま、ただそのままの姿で苦なしに流れる有様は美的に相違ない。それで両岸にいろいろな草花をあしらって、水の色と流れて行く人の顔の色と、衣服の色に、落ちついた調和をとったなら、きっと画になるに相違ない」
と描写します。そして、この想いは妖艶な女性、那美さんへと連なってゆきます。樹木が池の畔まで迫る山間の池を訪れ、水面を眺めながら、
「あの顔(那美さんのこと)を種にして、あの椿の下に浮かせて、上から椿を幾輪も落とす。椿が長えに落ちて、女が長えに水に浮いている感じをあらわしたいが、それが画でかけるだろうか」と述懐します。
ミレーのこの作品を鑑賞した後で、漱石の『草枕』を読んでみるのも一興かと思います。
多くの芸術家がオフィーリアを描きました。ここでは、美しいオフィーリアの肖像画をご紹介しましょう。敬愛するジョン・ウィリアム・ウォーターハウスもまた、数点の「オフェーリア」を残しています。
オフィーリアの肖像画






オフィーリア by John William Waterhouse




