イスパハン(Ispahan)- damask
どんなバラ?
枝のあちこちから花芽が伸びて、9cmから11cm径、60弁ほどの花弁が密集する丸弁咲きの花となります。
鮮やかなミディアム・ピンクの花は、時を経るとくずれて色を失いますが、
「オールド・ガーデン・ローズのなかでは、最初に開花して、最後まで咲いている…」とグラハム・トーマスが解説しているなど(”Graham Stuart Thomas Rose Book”)、一季咲きとしては、非常に花期の長いことで知られています。
鮮烈に香ります。
楕円形のとがり気味の、深い色合いのつや消し葉、柔らかな枝ぶり、120cmから180cmほどのシュラブとなります。
育種者、育種年の由来など
1827年に刊行された『スイーツ氏による英国園芸、第3版(Sweet’s Hortus Britannicus, 3rd edition)』に記載があることから、同年にはヨーロッパで知られていたことがわかりますが、育種者はわかっていません。
ヘリテージ・ローズ財団の機関誌『ロサ・ムンディ(Rosa Mundi)』の2010年版においてアリソン・ヘイワードは『ノラとナンシー・リンゼイのバラ』という記事を寄稿しています。20世紀の前半、園芸界を華やかに彩ったガーデン・デザイナー、ノラ・リンゼイの当時の様子を垣間見ることができます。
バラの中でも最も愛らしく、人を虜にするほど魅惑的で、甘美な香りを湛えているのは、モスローズ、『イスパハンの蕾のバラ』です。あの毛羽立った蕾は、心地よく満ち足りた様子で、レースのような紙で包まれた、エンボス加工されたサテンのモスローズとともに、幼い頃のバレンタインデーを鮮やかに思い出させてくれます…
Allyson Hayward “The Roses
of Norah and Nancy Lindsay”, 2010
なお、ノラはイスパハンを間違ってモスローズのひとつと考えていたようです。
品種名の由来など
イスパハンはペルシャの古都市エスファハーンのフランス名です。現在のイランを中心に支配したイスラム王朝であるサファヴィー朝(1501-1736年)の首都でした。
当地で自生していた株が、1832年にヨーロッパに持ち込まれたと考えられています。それゆえ育成者も育成年も不明です。
ポンポン・デ・プラーンセ(Pompon des Princes;”王子のポンポン咲き”)と呼ばれることもあります。
ニュージーランドのバラ研究家のナンシー・スティーン(Nancy Steen)もこの品種をことのほか愛したようです。著作の中で、
Nancy Steen “The Charm of Old Roses”, 1987
このダマスク・ローズが満開になったとき、文字通り数千にもおよぶ完璧な花が、あたかも噴水かピンクに色づいたシャワーであるかのように、長くアーチングする枝から垂れ下がってくる…
と賛嘆をこめて語っています。

パリの著名なパテシエ、ピエール・エルメがローズ・カラーのマカロンにライチとラズベリーを組み合わせたマカロン”イスパハン”はこの品種をイメージしたものです。このケーキを楽しみながら、バラに想いを馳せるのも優雅かと思います。

