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バラ、特にオールドローズ、ランブラーが好きです。
品種名の由来や込められた思い、あるいは背景となった物語、
また、育種者が生きた時代などへの想像をふくらませる作業などを続けています。
バラと宿根草や、葉色が美しいリーフプランツや灌木などを配置したコテージガーデンの作庭も夢見ています。

ガリカ、いちばん古いオールドローズ?①~夜明け前

ガリカ、いちばん古いオールドローズ?

11世紀から13世紀にかけヨーロッパにおいては、いちじるしい人口増加があり、また飛躍的な文化発展が成し遂げられました。

聖地エルサレムの奪還をめざして戦闘する十字軍

セルジューク=トルコ王朝が領有する聖地エルサレム奪還を目的とした十字軍遠征がはじまったのも1096年のことでした。
十字軍遠征により、西洋キリスト教国とイスラム王朝との抗争が何世紀にもわたって長く続くことになりましたが、多くの軍兵はエルサレムに定住することよりも故国へ戻る道を選びました。
軍を率いた貴族・軍属たちは故国への帰途、繁栄するイスラム社会のさまざまな分野にわたる文化・技術を持ち帰りました。十字軍の派遣は、結果的イスラムの高度な文明がヨーロッパへもたらされるという効果も生み出しました。

バラをヨーロッパへもちかえったのも十字軍でした。13世紀のことであったとする説が主流ですが、持ち帰ったバラは実が原種ではなく、多弁の赤花が咲く園芸種のガリカでした。こうしてガリカはヨーロッパへもたらされ、今日まで伝えられています。

しかし、持ち帰られ栽培されるようになったバラ(ガリカ)は鑑賞用としてではなく、乾燥した花弁などを煎じて薬効を求める薬剤として利用されるものでした。
信仰を深めた修道士たちは修道会をたちあげ、人里離れた僻地に修道院を建立し、そこで共同生活を行うかたわら、薬草、ハーブなどを用いて医療が行っていたこともよく知られています。そんな修道院の庭に薬剤としてのバラが植栽されているのはごく普通のことでした。修道院の静謐な中庭に香り高い赤バラ、ガリカに花開いていたのです。

それでは、原種のガリカからお話をはじめます。

ガリカ(Rosa gallica

5cmから7cm径、シングル咲き、または、セミ・ダブル咲きの花形となります。花は単輪になることが多く、房咲きになることはほとんどありません。
花色は鮮やかさの残る、深いピンク。
赤銅色の新芽は伸びきると、3葉または5葉の、くすみのある深緑の葉となります。茶褐色の小突起のようなトゲが密生する、細めではあるものの固めの枝ぶり、120cmから150cm高さの枝が密生するこじんまりとしたシュラブとなります。
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フランス東部から、イタリア、バルカン半島および黒海沿岸にかけて自生していると言われていますが、本来はフランスに由来するのではなく、中東アジア由来であろうというのが現在の理解になっています。
園芸品種としてのバラの、もっとも古い由来の元となった野生種です。

古い時代のヨーロッパでの利用

古い時代から、香油製造の原料としてのダマスクやガリカといったバラが栽培されていたことはわかっていますが、それがそのまま、18世紀の終わりころからフランスにおいて観賞用の園芸種としてバラ栽培が盛んになった時代につながっているかと言えば、それは事実ではなく、香料の原料としてのバラと鑑賞向けのバラとのあいだには大きなギャップがあったという印象を抱いています。

原種名の由来

ロサ・ガリカ(Rosa gallica L.)が学名として正式に登録されたのはヨーロッパへの到来からずいぶん経過してからのことでした。1753年、植物分類学の父カール・フォン・リンネ(Carl von Linné:1707-1778)は著書『植物の種(Species Plantarum)』(1753年)のなかで、「ロサ、葉は竜骨状で裏面は鱗状…ガリアに自生;ROSA foliis carinatis subtus scabris. Dalib. Paris. 145. Habitat in Gallia」とだけ記載しています。命名は現在のフランス中西部に土着していたケルト系の民族であるガリア(Gallia)に由来します。

別の記事で触れることになると思いますが、実はガリカは園芸種としてのスタートはケンティフォリアの陰に隠れたものでした。しかし、これはガリカの重要性を損ねるものではありません。
ガリカは、古い起源とされている他のオールド・ローズ、ダマスク、アルバ、ケンティフォリア、モスより以前に存在し、それらすべての品種の誕生にかかわったとみなされています。

18世紀以前からヨーロッパで栽培されていたと思われるガリカをご紹介してゆきます。

ロサ・ガリカ・オフィキナリス(Rosa gallica officinalis)

7cmから9cm径のセミ・ダブル、オープン・カップ形の花。
花色は深いピンク。パープルの色合いが加わることもあります。中心部のイエローの雄しべがアクセントとなります。
強く香ります。
幅狭、ボール紙のようなざらっとした表皮の明るい色調のつや消し葉です。細いけれど固めの枝ぶり、90cmから120cm高さの、低性のシュラブとなりますが、横張りの性質があり、高さと同じほどまで枝をのばし全体としてはこんもりと、ボリューム感のある樹形となります。
寒冷な気候、日照不足にはよく耐えますが、温暖地域にはなじみにくいことがあり、花つきが悪くなることがあります。
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ヨーロッパへもたらされた経緯/品種名の由来など

1241年、フランス、シャンパーニュ伯、ティボー4世が率いた十字軍が遠征を終え、エルサレムから故国への向かう帰途、ダマスキナ(Damascina)と呼ばれるバラを持ち帰ったと伝えられていますが、そのダマスキナこそがこのアポシカリー・ローズそのものであったと言われています。

園芸バラの最初の品種と目されるガリカの中にあって、原種に近い品種のひとつとされています。ロサ・ガリカ・オフィキナリス(Rosa gallica officinalis)とは、「薬剤師のガリカ・バラ」という意味です。アポシカリーズ・ローズ(Apothecary’s Rose)という別名で呼ばれることも多いですが、「薬剤師のバラ」の英語表記ですので、同じ意味になります。ともに実際に乾燥した花弁を薬剤として利用したことによります。

また、英国における『薔薇戦争(1455-1487)』では、”赤”バラを徽章とするランカスター家と”白”バラを徽章とするヨークシャー家が王位をめぐって抗争をつづけましたが、この品種は、ランカスター家お象徴するものと見なされ、レッド・ローズ・オブ・ランカスター(Red Rose of Lancaster)と呼ばれることもあります。

赤バラか白バラか、王位をめぐる薔薇戦争

このフォフィキナリスから赤白のストライプ咲きとなる品種があります。ロサ・ムンディ(Rosa Mundi)です。

ロサ・ムンディ(Rosa Mundi)

9mから11cm径、セミ・ダブル、オープン・カップ型の花形となります。
花色はクリムゾンと白の鮮やかなストライプ。
軽く香ります。
かたちよい卵形、明るい色調のつや消し葉。120cmから180cm高さの中型のシュラブ、浅緑の葉がさわやかな印象を与えます。
耐病性、耐寒性を備えた強健種です。
別名、ロサ・ガリカ・ヴェリシカラー(R. Gallica Versicolor)で呼ばれることも多い品種です。
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品種名の由来など

1658年刊行の『Catalogus Horti Botanici Oxoniensis』(オックスフォード植物園目録)』に”Rosa mundi, Rose of Roses.*と短く記載されていることから、その時代には知られていたことがわかっています。

アポシカリー・ローズとともに原種として分類されることもあるほど、古くから知られた品種ですが、アポシカリー・ローズとの著しい類似から、その枝変わり種と見なされています。命名はイングランドの王ヘンリー2世(治世1133-1189)の愛人であったロザムンド・クリフォード(Rosamund Clifford:1150-1176)に由来するという説がもっともよく知られています。絵画などの題材とされる魅惑的な物語です。詳細記事では、王妃と王の愛人とのあいだの葛藤についても記載しています。

スプレンデンス(Splendens)

7㎝から9㎝径、シングル、平咲き、花芯のシベのイエローと深いピンク(西洋サクランボ色)の花弁との対比がみごとです。
軽い香り(中香)。
楕円形の、明るい色調のつや消し葉。細いけれど固めの枝ぶり、剛毛のような小さなトゲが目に付く枝ぶり、120㎝から180㎝高さのシュラブとなります。
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品種名の由来など

一説には1583年には知られていたというほど古い品種ですが、詳細はわかっていません。
原種ロサ・フランコフルタナ(R. francofurtana)/フランクフルト(Frankfurt)との類似がよく言われています。実際には市場ではしばしば混同されているようですが、ガリカとフランコフタナとの自然交配(?)により生じた品種であろうというのが現在の一般的な理解です。

‘splendens’とはラテン語で「輝いている」といった意味です。当時、人気のあった品種名に重複して利用されることがあり、実際に同名ながらエアーシャー系のランブラーがありますので、注意が必要です。

コンディトルム(Conditorum)

9cmから11cm径、26弁を超える丸弁咲き、花色はモダン・ローズのような鮮やかな赤。
強い香り。
明るい色調のつや消し葉、小さなトゲが密生する、細いけれど固めの枝ぶりからは古い由来のガリカだと思わせるものがあります。120cmから150cm高さのシュラブとなります。
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品種名の由来など

コンディトルムとは”創設者”といった意味合いですが、命名の由来はよくわかっていません。古くは’Zukker Rose(”甘いバラ”独語)’と呼ばれていましたが、1889年、ドイツ(当時はプロイセン)のゲオルグ・ディーク博士(Dr. Georg Dieck)が新品種として登録した際に”ロサ・ガリカ・コンディトルム”と命名したようです。

トスカニー(Tuscany)

7cmから9cm径の、丸弁咲きの花形となります。
非常に濃いバイオレットの花色、中心部の黄色の雄しべとのコントラストが鮮やかです。
スパイシィな強い香り。
くすんだ深い葉色、細く、固めの直立性の強い枝ば、繁茂する独特の樹形です。90cmから120cmのコンパクトなシュラブとなります。
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品種名の由来など

非常に古い由来の品種でガリカ原種に近いのではないかと言われています。16世紀のイングランドのジョン・ジェラルド(John Gerard:1545-1611)が作成した1597年発行のリストにはジ・オールド・ベルベット・ローズ(the old velvet rose)のことが詳しく記載されていますが、このトスカニーのことであろうと考えられています。(異説もあります)

いかにも古い由来のように思えますが、実はいや、それほど古くない!という説もあります。次のようなものです。

1820年、シデンハム・エドワード(Sydenham Edwards)が公刊した園芸誌”The Botanical Register: Consisting of Coloured Figures of Exotic Plants Cultivated in British Gardens”に記載された”The Double Velvet Rose”こそが現在トスカニーとして流通している品種ではないかという説です。

この品種の美しさ、貴重さにはなんの影響もないのですが、1597年にすでに知られていたのか、あるいは1820年に出回っていたものなのか、おそらく”解けない謎”として残されてゆくのだろうと思います。

トスカニー・サパーブ(Tuscany Superb)~枝変わり種

トスカニー・サパーブ(Tuscany Superb

トスカニーには’トスカニー・サパーブ(Tuscany Superb)’という枝変わり種があり広く流通しています。”サパーブ”は”トスカニー”を超えるものという意味になります。

1837年以前、イングランドのウィリアム・ポール(William Paul)により見出され、市場に公表されたと言われていますが、古い時代のことゆえ異説もあり不確かなままです。

トスカニーと大きな違いはないのですが、花色はトスカニーが赤みを含んだバーガンディ気味なのに対しこのサパーブはパープル気味、香りはサパーブのほうが強めといったところが違いです。
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株が充実してくると細い枝が繁茂するブッシュとなり、花のない時期でも樹形の美しさを堪能できる品種です。年を経ると大株となり、小さめのクライマーとして利用できるという記述(John Scarman, “Gardening with Old Roses”)も見受けます。

シャルル・ド・ミユ/ビザール・トリオンホン(Charles de Mills/Bizarre triomphant)

7cmから9cm径、カップ型、よく整ったクォーター咲きの花となります。しばしば完璧なガリカと評されるほど気品のある花形です。
ガリカの中でももっとも深いとされるカーマインの花色。最も完成されたガリカという高い評価も得ています。
わずかに香るのみ。「花形にふさわしい香りがあれば!」と多くのバラ愛好家がため息をつきました。
楕円形のつや消し葉。細いけれど固めの枝ぶり、90cmから120cm高さほどの小ぶりのシュラブとなります。棘の少ない品種です。
寒冷な気候を好み、日照不足にもよく耐える強健種です。そのためか、温暖地域では花つきが悪いことがあります。
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品種名の由来など

1746年にはその存在が知られていたなど古い由来の品種であるため由来はつまびらかではありませんが、米国のバラ研究家スザンヌ・ヴェリエール(Suzanne Verrier)は、この品種はドイツで育種され、当初は’Charles Wills’と呼ばれていたものが、フランスで流通する際にフランス風にシャッル・ド・ミユ(Charles de Mills)と呼ばれるように変化したのだと解説しています。(“Rosa Gallica”, 1999)

“すべてのバラのなかで最も素晴らしい花を咲かせるもののひとつだ…/This rose has one of the most superb flowers of all roses..”(Roger Phillips & Martyn Rix, “Best Roses Guide”)とまで評されています。

ビザール・トリオフォント(Bizarre Triomphante)という別称で呼ばれることが多くなりつつありますが、これはフランスのフランソワ・ジョワイオ教授(Prof. Francois Joyaux)がこの品種の由来を精査した結果の主張に同意するものがあるのでしょう。(”La Rose de France”)

コンプリカータ(Complicata)

9cmから11cm径前後の、シングル、平咲きの花となります。
花色は明るいピンク。花弁の基部は白く色抜けし、全体としてはグラデーションがかかったような色合いとなります。イエローのシベがアクセントとなります。
軽く香ります。
幅広の、まるみを帯びた、くすんだ、しかし、明るい葉緑。トゲの少ない細めながら、固めのしっかりした枝ぶり。120cmから180cm高さの横這いするシュラブとなります。
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品種名の由来など

1864年頃、動物学者で植物学者のジャン・シャルル・マリー・グルニエ(Jean Charles Marie Grenier)が発見しました。ガルニエはこの品種をRosa reuteri(ローザ・レウテリ)の変種と判断しましたが、その後研究者の間で何度も改名されて混乱を招きました。
フランスのジュール・グラヴローは、バラ園ロザリー・ド・レ(Rosarie de l’Hay)の開園に際し、’Complicata’という品種を注文して植栽し、一般にはその品種名でよく知られることとなりました。しかし、この株は実際にはナーサリーのミスで違う品種だったようです。’complicata’という品種名自体、「(花弁等の)重なりがある/コンパクト化された」という意味になるとのことですので品種名とシングル咲きの実株との違いが明白です。
したがって、今日、わたしたちが鑑賞している’Complicata’は名称と実株に違いがある「間違い品種」であるということになります。

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